2008年_第1回ヒバクシャ地球一周(第63回ピースボート)

国連事務総長、核兵器禁止条約に言及

10月24日(金)、東西研究所(EastWest Institute)主催による核軍縮をテーマにした大規模なシンポジウムが国連本部等を舞台に開催された。「機運をつかむ—大量破壊兵器問題での停滞打開をさぐる 」と題した一日がかりのこのシンポジウムには、同研究所に加えて、モントレー不拡散研究所、グローバルセキュリティー研究所、英米安全保障情報評議会(BASIC)といった軍縮・不拡散問題の主要な国際シンクタンクが共催に名を連ねた。国連経済社会理事会会議場で開催された全体会には、基調講演にパン・キムン国連事務総長、パネリストにヘンリー・キッシンジャー米元国務長官、モハマド・エルバラダイ国際原子力機関(IAEA)事務局長など蒼々たる顔ぶれが並んだ。わがヒバクシャ代表団はこれらの会議の登録参加者として終日会議に参加した。

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国連経済社会理事会会議場で開かれた全体会
 キッシンジャーほか4名の元米国務長官が2007年1月に『ウォールストリート・ジャーナル』紙で「核兵器のない世界」を提言して以来、過去約十年にわたる核軍縮交渉の停滞を打開する機運が世界的に広がってきた。このシンポジウムは、こうした機運をつかみ、核軍縮を一歩二歩前進させるための具体的な方策を議論するために、世界中の専門家、政府・国際機関関係者らを集めて開催されたものだ。私たちは、こうした場にこそ核兵器の生身の被害者であるヒバクシャが発言し提言することが肝要であると考え、代表団4人およびスタッフで積極的に参加した。


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キッシンジャー元米国務長官(中央)

 一日のシンポジウムのなかでも、冒頭のパン国連事務総長による「5つの提案」 がきわだった注目を集めた。事務総長の「5つの提案 」とは以下の通りである。

(1)核不拡散条約(NPT)加盟国、とりわけ核保有国による軍縮義務の履行。

 その目的のためには、「複数の相互に支え合う条約枠組み」あるいは「核兵器禁止条約の交渉」を検討すること。核兵器禁止条約に関しては、すでにコスタリカ・マレーシアによる提案が回覧されている。

 ジュネーブ軍縮会議を再活性化するとともに、米ロ二国間による検証措置をともなう大幅核削減交渉を再開すること。検証措置は大切であり、その点でイギリスの努力を歓迎する。

(2)国連安全保障理事会の役割。

 5常任理事国が、非核保有国に対して核兵器の威嚇・使用をしないという法的拘束力のある明確な保証をすること。安保理による核軍縮サミットも検討可能である。

(3)「法の支配」の重要性。

 とりわけ包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、核分裂性物質条約(FMCT)の交渉開始が重要である。中央アジア非核兵器地帯条約の発効を歓迎するとともに、中東での非核兵器地帯を実現すること。国際原子力機関(IAEA)との各国の保証措置協定の重要性。核燃料サイクルの問題は、エネルギー問題、不拡散問題はもとより、軍縮問題にも関係することを認識すること。

(4)情報公開と透明性。

 核保有国が、核兵器保有数、核分裂性物質の保有目録、これまでに行った軍縮措置などに関する情報を公開すること。国連事務局を通じてそのような情報を公開すること。

(5)大量破壊兵器等に関する他の措置。

 核以外の種類の大量破壊兵器、大量破壊兵器によるテロへの対策、通常兵器の生産と貿易の規制、ミサイルや宇宙兵器など新型兵器の規制、ブリクス委員会による「大量破壊兵器サミット」の検討。

 なかでも、パン事務総長が冒頭に「核兵器禁止条約」に言及したことは、多くの参加者にとって、驚きをもって受け止められた。従来、核兵器禁止条約というものは理想的また究極的目標であったとしても、当面条約交渉を開始するということは非現実的であるというのが「国際政治の常識」であったからだ。たとえば、日本政府は毎年「核兵器廃絶」を訴える国連決議を提出しているが、核兵器禁止条約の交渉開始を求めるマレーシアなどの決議案に対しては賛成せず棄権している。「あまりにも時期尚早」というのだ。しかし、キッシンジャーらが「核兵器のない世界」を語りはじめ、パン事務総長が核兵器禁止条約を選択肢の一つとして公に語り始めたことは、今後の国際交渉の風向きに大きな影響を与えるだろう。

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全体会に参加するヒバクシャ代表団
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 この日のシンポジウムは、午後には6つの分科会に分かれ、それぞれ20人規模程度でラウンドテーブル形式で議論が続けられた。国連本部近くのフォード財団の建物などが会場となった。わがヒバクシャ代表団は、このうち、「第1分科会:核兵器を非正統化する」に節子サーローさんが、「第3分科会:核兵器ゼロへの展望」に中村キクヨさん、吉田勲さんが、そして「第6分科会:核兵器禁止条約実現のための方策」に森田隆さんとピースボートの川崎哲が参加した。いずれの会場においても、各国大使や専門家の前で、わが代表団は果敢に発言した。その基本的メッセージは、核兵器禁止を緊急課題としてとらえてほしい、ということである。

 第3分科会では核兵器ゼロへの道筋をマラソンにたとえた議論が続いた。吉田さんは手を挙げ、こう述べた。「核兵器廃絶を42.195キロのマラソンにたとえないでほしい。それでは気長すぎる。1万メートルを、全力で駆け抜けてほしい。」 熱い討論を、今クルーズのボランティア通訳(CC)白石佳世が終日同時通訳し続け、国際政治とヒバクシャをつなぐ架け橋となったことも紹介しておく。

 (ピレウス=川崎哲。国連代表団の活動はいまだニューヨークで続いているが、川崎哲は途中で離脱し本日よりギリシャ・ピレウスにて本船に再合流した。引き続き船と陸の双方から随時本ブログを更新する。)

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