3.核廃絶へのいろいろな動き

中国新聞の記事より:「ユース非核特使」の課題と展望

早いもので、今年の8月も最終日となりました。

ご紹介が遅れておりますが、1ヶ月ほど前に、中国新聞にて昨年6月に外務省が新設した「ユース非核特使」の運用について、現状と課題を評価した記事が掲載されました。ここでは、記事のご紹介とともに、僭越ながら、この1年ユースと共に旅をして私が感じた「ユース非核特使」制度の課題と展望についてまとめてみたいと思います。

記事の中では、「ユース非核特使」の派遣団体として高校生平和大使平和首長会議と併せてピースボートも挙げられており、文末にはピースボート共同代表の川崎哲のコメントも紹介されています。

▼記事はこちらからお読み頂けます。
中国新聞「非核の訴え 世界で発信 ユース特使 活動1年 進まぬ志望者の多様化」(2014年7月28日)


記事より「ユース非核特使の活動実績」

「ユース非核特使(英名:Youth Communicator for a World without Nuclear Weapons)」とは、日本の外務省が昨年6月より運用開始した制度で、「被爆者の高齢化が進む中で、被爆の実相の次世代への継承と活動の後押しを行うことを目指し、軍縮・不拡散分野で活発に活動する若い世代の人々に対して外務省として『ユース非核特使』の名称を付与するもの」とされています。(外務省ウェブページ「ユース非核特使の運用開始」より

この1年間で、35人の29歳以下の若者が「ユース非核特使」として任命されており、ピースボートが申請した方は、昨年の第6回「証言の航海」に参加した瀬戸麻由さん、第7回「証言の航海」に参加した浜田あゆみさん、福岡奈織さんが委嘱を受けています。


エルサルバドルで平和首長会議への加盟を訴える
瀬戸麻由さん(2013年9月)

外務省が述べているように、ユースの存在は今後ますます重要になってくることは間違いありません。私自身、昨年から3名のユースと共に活動する中で、被爆者の声をより鮮明に確実に次の世代へ語り継いでいくためには、彼女たちの存在は欠かすことが出来ないと強く感じています。私が旅を通して感じたユースの可能性については、ブログ「第7回『証言の航海』を終えて 」にまとめておりますので、ご一読いただければ幸いです。

この度の中国新聞の記事の中では、「ユース非核特使」として任命された35名の活躍を認める一方で、「志望者は一部の関係者に限られ、人材の多様化が進まない」「認められれば『特使』を名乗れるが、渡航費用の補助などの資金面の支援はない」などの課題を指摘しています。

確かに35名の内訳を見ると、申請したのはわずか3団体に限られており、活動内容として国連欧州本部や国際会議など、私たち一般市民が容易に出席できない場所が多いように見受けられます。また、外務省が認める「ユース非核特使」の条件として「軍縮・不拡散分野における活動,研究,研修・教育のいずれかの実績がある者」とありますが、この条件に該当する若者自体が少ないのではないでしょうか。(外務省ウェブページ「『ユース非核特使』の名称付与及び核軍縮・不拡散関連業務の委嘱」より)


タヒチにて核の被害について若者が語り継ぐ意義を語る
福岡奈織さん(2014年6月)

私自身、昨年よりユースを募集するようになってから様々な団体や教育関係者にコンタクトをとってきましたが、とりわけ原爆や核問題について活動している団体は、後継者不足に頭を悩ませているところが多かったように感じています。あるいは、若手で核問題について研究、活動している方がいたとしても、その団体には本人のみ、もしくは少人数しかいないため、該当するような方々は日々の業務に忙しく、外で活動する暇がないというのが実情ではないでしょうか。

制度の普及もさることながら、まずは人材育成に力をかける必要があると強く感じています。記事より、これまでに「ユース非核特使」として委嘱された方の多くが高校生であることが分かりますが、高校を卒業し、たとえば就職が目の前に迫ってきたときに、これまで通りの活動を続けることが難しくなってしまう方は多いと思います。今の日本社会では、まだまだ「平和」を職業にすることは社会の認知度も低く経済的にも非常に厳しい状況です。具体的な人材育成のビジョンを考えたときに、この点は大きな課題になるのではないかと思います。

また、「どのような人材を育てるか」という点において、より広く多様な層に核問題への関心をもってもらうためには、アカデミックに軍縮問題に携わっている人々だけでなく、より幅広い分野で活躍する人々へ、対象を広げて良いのではないかと思います。また、活動の場も必ずしも公の場に限る必要はないでしょう。

ここで「継承者」に求められるものとして、ある程度の知識や実績も必要ですが、より効果的な「語り継ぎ」を実践するためには、様々な被爆者の声に耳を傾ける柔軟性、プレゼンテーションの能力、人々を巻き込む力やスキル(海外で活動する際には外国語の能力)などが必要であるように感じます。


ペルーにて原爆詩を演劇で表現する浜田あゆみさん
(2014年5月)

また、制度を利用する側の希望を申せば、より具体的なメリットがあれば利用する団体が増えるのではないかと思います。たとえば、国内外で活動するためには交通費、研修費、宿泊費など大きな費用が必要となりますが、現在の制度上、これらはすべて申請
する団体が負担しなくてはなりません。現状として、複数人のユースを育て活動させるための費用を独自に負担できる余裕がある団体は限られており、これではなかなか普及しないでしょう。さらに、活動するに当たり、ある程度の拘束時間も発生します。

ここで、国からの総合的な補助、具体的には資金面、あるいは学生であれば単位を認定するなどの援助があれば、こんなに助かることはありません。

ブログ「第7回「証言の航海」を終えて 」にも書かせていただきましたが、被爆者をはじめとする戦争経験者と、私たち戦後生まれの世代では生まれ育った時代も、もっている価値観も異なります。この大きな溝ともいえる「違い」を認めつつも、互いの思いを共有し、共に核や戦争のない世界のためのムーブメントを起こすには、熱意のあるユースの存在が欠かせません。

被爆者の皆さんと共に活動できるこの貴重な時間を無駄にせず熱意ある若者を育てるためにも、より充実した制度への発展を期待するとともに、もっと国と私たち市民団体が連携していけたらと強く願います。

(ピースボート 古賀早織)

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