2008年_第1回ヒバクシャ地球一周(第63回ピースボート)

ヒバクシャから核廃絶を呼び掛けるラッド首相への手紙

12月29日、ピースボート第63回クルーズ「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」参加ヒバクシャ一同が、オーストラリア・ケビン・ラッド首相宛に送った手紙の全文は以下。

オーストラリア連邦 ケビン・ラッド首相閣下

私たち広島・長崎のヒバクシャ約100名は、日本のNGOピースボートの企画・運営による「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」として、世界各地で原爆の証言活動を行いながら世界を回っております。このたびは貴国のシドニー市に訪問し、大勢の方々とお目にかかれることとなりました。

私たちヒバクシャは、日頃より原爆の恐ろしい体験を広島や長崎にて大勢の方々に積極的に伝えてきた人、またひとり世界各地の人々に被爆体験を伝えてきた人、いっぽう思い出したくもない恐ろしい記憶として自分の心の底に深く閉じ込めてきた人、また被爆当時はまだ幼すぎて記憶もないがその経験が不安感として心に刻まれている人など、さまざまです。それでも一様に、自分たちの経験がなかなか世界で生かされず、核兵器が廃絶に向かうどころか世界で広がり続けていることに深い悲しみを感じております。自分たちの生きている間には核廃絶は達成できないのではないかといった強い焦燥感を感じてきましたし、諦めに似た思いをしてきた人もおります。

ところがこのたび、貴殿が強い指導力を発揮され核廃絶に向けた大きな一歩を踏み出されたことに、私たちは光明をみる思いをしております。貴殿が「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」を立ち上げ、豪日が共同して世界の主要国を説得し核廃絶に向けての具体的な進展を図ろうとされていることに、私たちは心より感銘を受けております。

核廃絶を達成することは、現在の核保有国の頑なな姿勢を鑑みるとき、厳しい道のりであると考えられます。しかし、これまで化学兵器や生物兵器の禁止条約が実現したように、核兵器禁止条約は実現可能であり、そのための国際社会の合意を形成することが急務です。
その第一歩として、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、核分裂性物質の生産禁止、また核兵器使用の非合法化など、諸国間で合意に達しやすい事項から実績を重ねていけば、核兵器禁止条約への道も開けていくでしょう。

さらには、ウラン採掘やプルトニウム再処理工場の危険性、劣化ウランの軍事利用による被害などを考えたとき、私たちは、原子力に依存した社会から脱皮し、循環型社会の実現に向けて歩みを始める必要があります。自然エネルギー技術の発展促進の国際的な取り組みにも併せて一層の指導力を発揮されることを願って止みません。

一瞬にして人類の滅亡を招きかねない核兵器の使用や核関連施設の大事故を防止することは、現在の人類の最優先課題であります。しかし「災害は忘れた頃に発生する」と申します。人間はどんなに辛い大きな経験でもそれを後世に伝えることは至難の技です。よほど強い人類共通の法的規制や慣習として確立しておく必要があります。

そのためにも私たちヒバクシャは、核がもたらした被害に関する世界的な普及・教育活動に対して、献身と協力を惜しみません。国際委員会の委員の皆さまには、ぜひ広島・長崎にお越しになり、核の惨劇と被害の実相についてしっかりとした認識をもっていただきたいと願います。

いま世界は、核廃絶を現実のものにするための最後の機会をつかむのか、それとも際限のない核拡散の時代へと突入するかの歴史的な分岐点にさしかかっています。広島・長崎両市長を中心とする平和市長会議は、2020年までの核兵器廃絶をめざして世界的な緊急行動を展開しています。こうした市民社会の動きとも連携して、国際委員会が力強い提言をまとめられ、世界的な潮流形成に寄与されることを期待いたします。

世界の大きな潮流を変えるのは、長期的視野に立ち卓越した識見と強い倫理観を有する指導者と、それを草の根で着実に実行していく大勢の市民の両者が合体したときにはじめて可能になることは、人類の歴史が物語っております。とかく私たちは自国、自分の属するグループまた自分個人の目先の利益や安全にのみ関心が向き、人類の一員として将来にまでわたり責任を有していることを忘れがちになります。私たちヒバクシャは平均年齢が75歳を越え、残された時間は非常に限られてしまいましたが、自分たちの受けた被爆体験を将来の人類の存続のためにできる限り役立てたいという使命感に燃えております。

貴殿や貴国と今後とも手を携えて核廃絶の実現に邁進したいと存じますので、今後とも協力のほどよろしくお願い申し上げます。

敬具

「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」参加ヒバクシャ一同

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