現在航海中の地球一周の船旅第102回。全行程の「おりづるプロジェクト」は実施していませんが、ラテンアメリカ区間(ベネズエラ・ボリーバル共和国とドミニカ共和国)にて、メキシコ在住の長崎被爆者、山下泰昭さんにご乗船いただきました(クリストバル~ニューヨーク)。ラグアイラでの証言会について紹介します。
ベネズエラへのピースボートの寄港はこれで17回目。毎回大きな歓迎を受けますが、米国からの厳しい経済封鎖を受け孤立する今日、今回のピースボート訪問には大きな意味がありました。その状況下、ベネズエラの人々と一緒に平和のメッセージを伝えることは、私たちにとっても重要なことでした。
船内での証言会が予定されたのは、寄港2日目である10月4日。10月3日、山下さんにはゆったりと過ごしていただく予定でした。それもつかの間、午後16時頃、関係者にベネズエラ外務省から連絡が届きます。
「大統領との面会が決まりました。大統領府へお越しください」
約1時間車を走らせ、大統領府に到着したのが18時。山下さん、クルーズディレクターの吉田真林を代表とした10名で面会に臨みました。待っていたのは、ニコラス・マドゥーロ大統領、シリア・フローレス大統領夫人、デルシー・ロドリゲス副大統領、ホルヘ・アレアサ外務大臣、ホルヘ・ロドリゲス通信情報相、と蒼々たるメンバー。多忙の中、1時間以上の話し合いが行われました。
ベネズエラが晒されている経済封鎖の状況に触れたあと、「被爆者の方々が、ベネズエラそして世界に伝えてきたメッセージの積み重ねは、非常に大きい」と、大統領は証言を語り継いでいく重要性を強調しました。山下さんは、「小さな小石を海に投げても、小さな波にしかならないけれど、何度も、何人もが投げれば、それは大きな波となる」と語り、閣僚らが大きくうなずきました。
翌日4日は、船内にて証言会を行いました。山下さんのまっすぐでひたむきな語りかけに、地元の中学生、カウンターパートナーのみなさん、外務省職員、港湾局や入管の職員まで約500名が聞き入りました。閃光と爆風、家族の苦しみ、そのあとも続いた差別・・・目に涙を浮かべながら聞くひとも少なくありません。同席したホセ・テラン市長は、「私たちも勇気を持って、山下さんのような平和をつくる人になろう、そういう若者が増える町にしよう」と訴えました。
この証言会は、2年前に94回クルーズでの被爆者証言に心を打たれたという若者たちがボランティアとなってサポートしてくれました。ここベネズエラでも、平和をつくる若者は確実に増えている、と実感しました。
ピースボート:松村真澄