3月28日、メキシコで行われた「核兵器の人道上の影響に関する第二回国際会議」の報告会が明治学院大学にて行われました。この報告会は三部構成で、メキシコ会議(政府会議)について、市民の動きについて、そして今後に向けて、会議に参加した代表者らが報告を行いました。
全体としては非常に前向きな報告が多く、核兵器廃絶に向けて確かな前進があったという感想が多かったように思います。そしてこの気運にのって、4月のNPDIや第3回非人道性オーストリア会議に向けて気を引き締めたいという各代表者の思いが伝わってきました。
以下長くなってしまいますが、各部の発言をまとめましたので興味がある方は参考にしてください。なお、この報告会に関しては核兵器廃絶日本NGO連絡会のページでも紹介されています(報道関連のリンクもあります)。
第一部のメキシコ会議(政府会議)の報告では、日本赤十字社長崎原爆病院の朝長万左男院長と、日本被団協の田中煕巳氏・藤森俊希氏からそれぞれの活動報告と感想が発表されました。
朝長院長は今回の会議に際して、広島・長崎の例やケーススタディを用いて核兵器爆発がもたらす健康、インフラ及び経済への被害・影響について発表を行いましたので、その内容を改めてお話くださいました。
朝長万左男院長
それを踏まえて朝長院長は、今回の議長が総括として「ナジャリットは、もはや後戻りできない地点である」と述べたことを核の非人道性の科学的な根拠が認められたとみていいのではないかとの感想を述べられていました。
被団協のお二方はそれぞれ冒頭で被爆者の証言の時間が設けられたことがいかに有意義であったかを述べられました。
日本被団協の田中煕巳さん
セッション実現にあたってのメキシコ政府の並々なる努力と熱意、同情に感謝するとともに、核の脅威が非人道的であり、国境なく広がっていくものと認められ、具体的な核兵器禁止条約にむけての決意がみられるまでに会議の話し合いが進んだことに確かな手ごたえを感じたようでした。
日本被団協の藤森俊希さん
続く第二部はでは、市民社会の活動ということで、創価学会、世界宗教者平和会議日本委員会、高校生平和大使、ピースデポ・BANGからのお話がありました。市民団体の代表者らは、政府会議のほか、ICAN主催で行われた市民社会会議に参加し、それぞれで活動を行いました。
創価学会の河合公明氏は、今回の議論に倫理的な観点を提供すべく会場で開催した展示会Everything you treasureについて報告し、「核兵器はみんなが大事にしているすべてのものを奪ってしまう」というメッセージを伝えたと話していました。また、核兵器のリスクを論じたグローバル・ゼロやチャタムハウス(イギリス・王立国際問題研究所)のプレゼンテーションが興味深かった話などもされていました。世界宗教者平和会議日本委員会の畠山友利氏からは、今回改めて気が付いた点として、これまで抑止のために有用だと思われてきた核が、非国家主体までもが核兵器を持つ可能性がある現在においては逆に脅威となってきてしまうというお話、そして広義な意味での核の問題が地球の持続可能性や他の社会問題といかに密接につながっているかというお話がありました。その上で「一歩一歩根気よく訴え続けてまいりたい」と決意を新たにされた畠山氏の姿勢は大変頼もしく感じられました。
続く高校生平和大使の報告では、本会議での被爆三世としての証言や、市民会議における他国の若者との交流について、また、現地の高校での活動紹介や国会議員との面会などについての報告がありました。
高校生大使の二人にとっては、自分たちの活動を多くの人に知ってもらえたこと、各国が積極的に核廃絶に向けて動いていく様子を目の当たりにできたこと、またメキシコの人たちが官民問わず積極的だったことが印象的だったようです。そして、「若者だからできること」を再認識するきっかけともなったようで、被爆者が高齢化する今だからこそ、若者が科学的な話や外交的な話も交えながらいかに核廃絶に主体的に関わっていけるかが鍵だと思いを新たにしたようでした。
メキシコにおける高校生の役割
最後にBANGの活動を報告した金マリア氏からは、日本ではまだまだなじみの薄いクリエイティブなキャンペーンの展開手法が多数紹介されました。
国際会議だからといって堅苦しくなりすぎず、バラやパラシュートを使いながらとにかくインパクトのある方法で世の中に訴えていくことが大事だと感じました。
また、そういった形で核問題に関わる若者が増えているようで、BANGについてもオスロ会議に比べて非ヨーロッパ人の参加者が確実に増えたそうです。
ヨーロッパ中心だった活動が世界的なものに広がっています
今後を考える第三部では、ピースボートとICANの共同代表を務める川崎哲が核兵器禁止条約とは何かを丁寧に説明しながら、今年4月に行われるNPDI(軍縮・不拡散イニシアティブ)外相会合や年内に開催される予定のオーストリアでの第3回目の核の非人道背に関する会議でのみどころと、日本の役割を解説しました。
川崎は、今回議論の焦点となった「核兵器禁止条約」は「核兵器の解体やその検証については定めない『とりあえず核兵器を禁止する』条約」であるとした上で、それでも有志の国でその条約の締結にむけて動いていくことが大事だと述べました。
禁止条約のいろいろ
今回のメキシコでの会議への参加を核保有5大国が見合わせたように、核兵器禁止条約締結にむけての動きに関しても、おそらく核保有国や核の傘に守られている国を最初から巻き込むのは難しいでしょう。そうした中ではとりあえず有志国で条約を締結してしまい、批准に向けての圧力をかけていくという戦略が市民社会のめざす方向としては現実的ではないかとの話がありました。それを踏まえて、オーストリアでの会議ではどこまで有志国が「行動」に踏み込めるかが見どころとなりそうです。また、その前に行われるNPDIでは、核を保有する、または核の傘に頼る国々がどのような(ネガティブな)立場を表明し、どのような宣言内容になるかに注目する必要がありそうです。日本の政府にはこういった流れの中で、「禁止だけでは廃絶できない」「人道だけでなく安全保障の議論を」「核保有国を関与せよ」「NPTプロセスが大事」などといった主張をすることで有志国による核兵器禁止条約の締結にむけた動きを阻害することがないように我々は見守っていかなければいけません。また市民社会は、NPT決戦論を克服する必要があると川崎は考えているようで、すべての力をNPT再検討会議にむけようという形の核廃絶運動を見直さなければいけないと主張しました。
5年ごとのNPTにいくことにすべての経済的・人的資源を投入するのではなく、少なくとも複線化して有志国のプロセスにもきちんとアテンションを与えなければいけないとして、川崎の報告が終わりました。
ピースボートスタッフ 畠山澄子
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