オーストラリアの先住民のデビー・カルモディーさんの船内初めてのセッションは、英語のみで行われました。
先住民地域を保護するための様々な活動について、学びました。動物の頭数を調査したり、子供たちに参加してもらうことで国を守ることが大事であると教えているそうです。自然を守りながらどのように地域を保護するのか、木の実を食糧や工芸の材料として利用する方法や火事になった場合、動物を避難させるなどの知恵を先住民の伝統から学んでいます。
「目まぐるしい現代社会の中でゆっくりした速度を保つのは難しいことだけど、大事なこと」と彼女は教えてくれました。私たちが忙しい生活の中、失いつつある自然の大事さや人間もその一部であるという事実を忘れてはいけないと気付かせてくれました。
また、「放射能の被害を受けているという点で、広島や長崎の被爆者と強い繋がりを感じる」とも伝えてくれました。先住民の多くの人がお酒に頼ったり、若い世代は言葉などの固有の文化を忘れてつつある、という悲しい事実もありました。
デビーさんは、先住民の国の姿をアートで表したり、広めるために様々な媒体を通して伝えています。地球の尊厳性を守るために動物は私たちと同じ存在であると気付くこと、子どもたちを教育することは非常に大事な課題であることも教えてくれました。
翌日の講演では、先住民の家族が被爆をし、故郷から脱出する道のりやその後の生活まで、壮絶な家族史を語ってくれました。
<デビーさんの証言>
オーストラリア西部の砂漠に住む先住民・スピニフェックス族は、太陽の民として砂丘、ユーカリ、オークに囲まれ、自然と共に生きる生活をしていました。1908年にイタリア人が鉄道建設を始めるまで、その辺り一帯は異なる先住民族が各自の固有文化を持ってそれぞれに暮らしていました。突然始まった鉄道建設で、先住民の人たちは初めて西洋文明・汽車を目の当たりし、大変驚きました。混乱はあったものの、貿易の方法を学びました。
しかし、イギリス政府の核実験決定により、先祖代々暮らしてきた、生活の一部、自分の体の一部でもある土地からの移動を余儀なくされました。移動手段もままならない状況で、なぜ何千年も暮らし続けてきた故郷を旅立たないといけないのか、、、、その時は誰にもわかりませんでした。判明したのは、核実験が行われた後でした。
多くの人が病気になり、死んだカラスが空から落ちてきたり、ウサギは熱で焼け焦げていました。その肉を食べたり、水を飲んだりした人々は死んでいきました。これは核実験が原因であることにようやく気付いた先住民は、1952年に核実験に反対するデモを行いました。
政府による核実験の影響を受け続ける先住民にとって、お酒だけが慰めになる場合も多くありました。核実験のために故郷から追い出され、病気になり、死んでいきました。1970年代にスピニフェックス族は政府に故郷に戻りたいと訴えましたが、別の地に移住させられました。しかし、そこから諦めることなく政府から核実験に対する補償金を受け取り、故郷に戻る道を作りました。1980年代になって、とうとう長老を先頭にドゥンドゥンダラの故郷に戻ることができました。空き地となったところに学校、病院、女性センターなどを建てました。人類学者を雇い、この土地に対する所有権を主張し、絵画で表現し、世界に訴えかけました。その努力の結果、土地の所有権が認められました。
しかし、現在新たな深刻な問題が私たちに迫っています。ウラン採掘会社がマルガロック(Mulga Rock)でウラン採掘するための開拓許可が出たのです。核に使われるウランを採掘する産業は水を多く使用するので、動植物が生存するための水が足りなくなります。ウラン採掘は日本の福島の原発にも繋がったのではないかと思うと心が痛みます。核実験により彼らが難民になったように、新しい核難民が誕生する可能性もあります。また、気候変動によりまた環境難民が現れるかもしれないということを忘れて欲しくありません。
—ここまで証言の抜粋——
デビーさんからの心に響くメッセージでした。
自分の民族の歩み、そして苦しみ、ウラン採掘を通して見える福島への責任感、、、核難民と環境難民の恐れ。沢山の思いが伝わったと思います。
最後に、デビーさんを支援しているK.A.さんから「ウラン採掘にNO」と先住民の言葉で書かれたTシャツをプレゼントして頂きました。
英語の記事はこちら:
■All Aboard: Peace Boat hosts ICAN Workshops across Australia
https://peaceboat.org/english/news/all-aboard-ican-australia
■Stories of the Black Mist: First Nation anti-nuclear activists share testimonies on Peace Boat
https://peaceboat.org/english/news/stories-of-the-black-mist
■All Aboard Peace Boat’s Australian Tour
文・写真:ピースボート 鄭銀貞(シルビー)
編集:ピースボート 渡辺里香