3.核廃絶へのいろいろな動き

核兵器禁止条約「発効」で世界はどう動く?日本はどうする?

9月21日は国連で定められた「国際平和の日」。ピースボートでは、ICAN運営委員である川崎哲のオンライン講座を行いました。これまでも、核兵器禁止条約についての話をしてきましたが、今回は50カ国の批准、その90日後の発効が目前に迫り、世界はどのように動くのか、日本はどうするのか、について議論が行われました。

現在、各国と交渉を続けるICANでは、10月には50カ国の批准が達成し、1月中には発効に移るだろうという見方があります。この講座の前半部分では、正式な国際法になるということを、歴史的文脈と具体的文脈で解説しました。後半部分では、それに対して日本ができることについて話しました。

歴史的文脈

大量破壊兵器としては生物兵器や化学兵器、非人道兵器としては対人地雷やクラスター爆弾がこれまでに禁止されてきました。これらの条約にも「非締約国」は存在しますが、条約ができたことによって「生産をなくした」「輸出入しなくなった」など、変化は顕著です。また、奴隷制度や女性参政権、子どもの権利条約などを挙げ、作られた規範によって社会が変わった例もいくつか紹介しました。各条約の発効、それと連動する市民運動。この2つの歴史的文脈の流れに今回の核兵器禁止条約ができた、と言えます。

核禁止条約締結の流れ

具体的文脈

禁止条約が発効すると、具体的にどのようなこと起こるのでしょうか。
まず、第一回締約国会議への動きが始まります。すでにオーストリア政府がホストを希望していますが、想定される議題として、条約の普遍化、禁止事項の解釈、核保有国の加入、被害者援助と環境回復が挙げられました。

現在の批准国は、核兵器非保有国です。条約により効力を持たせるためには、核依存国や核保有国へのアプローチが重要になります。実際には、依存国が集まるNATO諸国からの条約参加の検討が見られるようになっています。そういう国々が署名・批准をする道筋を立てなければなりません。そして、実際に核兵器を持つ保有国に至っては、解体の期限や核廃棄の流れなどを提案していくことになります。

締約国会議に向けて

日本はどうする?

第一回締約国会議に向けて、日本はどのような動きができるでしょうか?
日本の市民社会からは、被爆者とともに、改めて核の非人道性を訴え、「核兵器の時代を終わらせる」というメッセージを届けることができます。
日本政府としては、批准ができないとしても、オブザーバーとして締約国会議に参加することができます。これまでの政府答弁、国際司法裁判所での勧告的意見、核軍縮の「賢人会議」レポートからの引用を読み解くと、核兵器の使用は合法か違法か、判断するのが困難という見解が分かります。これは唯一原爆を体験した国としてはとても残念なことであり、合法的な核兵器の使用はあり得ないのだ、と声高に言い続けることが必要だと強調しました。
国会に対しては、禁止条約参加への議論を始めるべき。非核3原則の堅持に加え、「核兵器の開発、保有、使用をいかなる形でも援助、奨励、勧誘しない」という宣言を目指すべきだと加えています。現在、70%が「核兵器禁止条約に、日本も参加すべき」という世論に対し、ヒバクシャ国際署名に賛同している国会議員は全体の16%。核兵器廃絶NGO連絡会が8月5日広島で行った議員討論会、スマートフォンサイトの「議員ウォッチ」を紹介しながら、市民側からの働きかけを提案しました。

8月5日「議員討論会」登壇者ら

また、9月21日、講演当日に発表された「核兵器禁止条約支持」への公開書簡についても触れました。http://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=101105

これは、韓国の潘基文元国連事務総長(元外務大臣)を含む56名の元首脳や元大臣が、核に依存する当事国22カ国に送った公開書簡です。この中に含まれるNATO元事務総長は、核兵器の禁止をするほうが世界を安全にすると明言しています。日本を含め、核兵器禁止条約加入に「法的障害はない」と言っている政府もあります。核の傘の下にいても、禁止条約に参加しながら核軍縮を進めることはできるのです。
核兵器製造への融資禁止へ乗り出す銀行も少しずつ増えています。これも市民による働きかけ、世論の影響を強く受けています。

禁止条約の「発効」は、私たちが興奮して喜んだ3年前の条約「採択」よりも意味あることかもしれない、と締めくくられました。これまでに、条約として作られても、発効しなかったという残念な例もあります。「発効」は、新たな時代を切り開いていくシンボル。年明けに発効を迎えたら、皆さんとお祝いし、一層のエネルギーを注ぎ、一緒にアクションを起こしていこうと思っています。

ピースボートとしてできること

ピースボートはこれまで広島・長崎の被爆者の皆さんと共に証言の航海をしてきました。約180名の被爆者とともに様々な国と地域に直接の声と思いを伝えてきました。しかし、新型コロナウィルスで船が出せない今、オンラインで世界に向けた被爆証言会を行っていくことにしました。

国連加盟国は現在193カ国です。国連に加盟していない国や地域も加えれば、世界には約200の国があります。このうち物理的に実施が不可能である国を除いて基本的にすべての国で被爆証言会を行うことをめざして、190カ国での実施を目標とします。そのうち100カ国以上を2021年末までに実施したいと思います。

「おりづるプロジェクトオンライン」を発表!

被爆証言会を実施した一つ一つの国で核廃絶へのメッセージを集め、それを核兵器禁止条約の締約国会議に届けます。核兵器をもう終わらせようという被爆者の声と、それを支持する100カ国超の世界の市民の声を、締約国会議に届けたいと思います。

詳しくはこちら→ https://peaceboat.org/35210.html

メディア掲載

9月21日 中国新聞 核禁止条約発効へNGOが訴え 「被爆者の声を世界に」
https://www.chugoku-np.co.jp/news/article/article.php?comment_id=682898&comment_sub_id=0&category_id=24

9月22日 NHKニュース あと5か国に” 核兵器禁止条約の発効必要数まで  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200922/k10012629421000.html

9月22日 朝日新聞 国際平和デー、核禁発効に向けてオンライン講演会 https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20200921001825.html

9月22日 長崎新聞 核禁締約国会議 日本政府にオブザーバー参加を要求
https://this.kiji.is/680951103390991457

9月25日 NPOcross 核兵器禁止条約「発効」迫る 問われる日本の立ち位置
https://npocross.net/1594/

9月26日 西日本新聞 核兵器禁止条約 被爆国の役割を忘れるな
https://www.nishinippon.co.jp/sp/item/n/648519/

ピースボート 松村真澄

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