ル・アーブル寄港の翌日、パシフィック・ワールド号はティルベリーへと寄港しました。イギリス各地への”海の玄関口”として重要な役割を担ってきた町で、首都ロンドンとは車で約40分の距離に位置しています。
ロンドンには、”ビックベン”の愛称で知られるウェストミンスター大時計やイングランドを代表する建造物の一つであるロンドン塔、セント・ポール大聖堂などの観光名所があります。
おりづるメンバーも車窓観光でロンドンの街並みを楽しみつつ、ル・アーブルに引き続き、ロンドンでも一日を通して活動をしました。
午前中は、ピースボートと長年協力関係にありICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)メンバーの1つでもある“核軍縮キャンペーン(CND)”が主催するイベント「被爆者に会おう:広島・長崎からの物語」に招かれ、証言交流会をしてきました。このイベントには、ロンドンを中心とした平和・軍縮団体のメンバーやその家族や友人など約100人が参加しました。またイベント会場は、平等と平和のために尽力し、軍縮を含む多くの問題に国際的に取り組んでいる”クエーカー教徒”の中心的な事務所であるフレンズハウスをお借りしました。
はじめに、CND議長のトム・アントレーナーさんの進行のもと会が始まりました。トムさんからの挨拶ののち、第一部はおりづるメンバーの被爆証言でした。
6歳の時に広島で被爆をし、その瞬間の出来事を鮮明な描写とともに語る田中稔子さん。被爆当時は1歳で自身の記憶はないものの、原爆の日を風化させないために「忘れないプロジェクト」を立ち上げた小川忠義さんのお話。そして、その二人と共に旅をしさまざまな国籍の人が平和について対話をしている姿を見てきたユースのミキさん(ロンユアン・フアンさんのニックネーム)。三者三様の平和への大切な想いが詰まったメッセージを聞いた会場は、溢れんばかりの拍手に包まれました。
その後の質疑応答で「今日の話を聞いて原爆はとても恐ろしいものだと言うことがわかりました。一方で、原爆を使用したことは(戦争を早く終わらせ)結果的に多くの命を救ったという意見もありますが、どう思いますか」と聞かれました。
それに対して田中さんは「当時だけを見ればそう思うかもしれません。しかし今もなお原爆で受けた放射能の影響で苦しんでいる人がいます。その数は表すことができません。そしてすべての戦争が終わったわけではなく現在進行形で続く戦争があります。(原爆使用は)多くの人の命を救ったとは思いません」と回答しました。
ほかにも数多くの質問が寄せられました。
そして第二部はアートやアクティブに焦点をあてた交流会でした。
ヒロシマ原爆をテーマにした戯曲「The Mistake」を書いたイギリスの俳優のマイケル・ミアーズさんご本人による10分ほどの一人芝居「原爆当日を体験した神父の話」が行われました。芝居を見た田中さんからは「当日の様子を鮮明に思い出して涙が出た」と、マイケルさんとの会話の中で教えてくれました。
その後は小グループに分かれ、ピースマークへの色塗りや折り鶴を作るワークショップなどを行いました。おりづるメンバーを囲むように円になり、各グループで追加質問が出てきて活発なトークが交わされる有意義な時間となりました。
ロンドンで教師をしながらヒバクシャの話を学生に伝えているというジュリーさんは「この会場に来た人のほとんどは核廃絶に興味がある人です。興味がない人にこそぜひ伝えたい!ピースボートの事務所がロンドンにあれば、たくさん一緒に活動ができるのに。」と感想を伝えてくれました。
また、以前ピースボートに通訳ボランティアとして乗船し、現在はロンドン在住の佐々木もえさんも今回のイベントに来場しており、乗船当時の思い出話や現在の船内の様子などについて質問していました。
あっという間に予定していた2時間は過ぎました。今回主催者でありスケジュール調整や会場準備をしてくれた、ディクシー・ウィリスさん、シャーロット・クーパーさん、サラ・メディ・ジョーンズさんにお礼を述べ、9条プレートや七宝アクセサリーなどの日本からのお土産をプレゼントして午前のイベントが終了しました。
それから一行は昼食を取って午後のイベント会場へと向かいました。
14時過ぎの遅めの昼食には、ロンドン在住で被爆者の肖像画写真展を企画実施しているジーナ・ラングトンさんも同席しました。
ジーナさんは以前、田中さんの3D肖像画も製作しており久しぶりの再開を喜んでいました。昼食をとりながら、ジーナさん自身の家族の話や被爆者の肖像画を製作するに至った経緯などを伺いました。
ジーナさんとはここで分かれ、午後のイベント会場であるインターコンチネンタルロンドンへと車を走らせました。
午後は証拠と理性を用いて、人類の最も危険な兵器である核兵器の再使用を防ぐために活動する”Effective Altruism(効果的利他主義)コミュニティー”が主催するEA Global会議。この会議は2日間おこなわれており、おりづるメンバーはその会議の締めくくりとして講演しました。
午前と同じように、田中さん、小川さん、ミキさんの順番でこれまでのクルーズで感じた経験も踏まえながら被爆証言や平和への想いを語りました。
今もなお続く戦争に対してどんなことを思うのか、原爆を投下した過去からアメリカやイギリスは何かを学んだと思うか、といった質問が寄せられました。
それに対して田中さんは「日本を含めて核抑止論を唱えている以上、何も学んでいないと思います。だからこそ80歳を超えた今も、被爆者は核兵器廃絶を訴え続けているのです。」と回答しました。また小川さんは「人は忘れていくものです。だけど忘れてはいけないことがあるからこそ私は”忘れないプロジェクト”をしています。」と忘れないことと継承することへの大切さを伝えました。
メンバーが退室するときには会場にいた350名以上のメンバーがスタンディングオーベーションで鳴りやまぬ拍手とともに見送ってくれました。
会場に友人が来ていたというおりづるユースのジョエルも「友人もとても良い会だったと言っているし、主催者側も『週末で開催した会議の中で一番いいイベントだった』とSNSにアップしている!」とテンション高く共有してくれました。
「国」としては核兵器廃絶に消極的だったとしても、市民レベルでは積極的に廃絶に向けて活動している仲間がいて、その輪が少しずつ広がっていくのを実感できる1日となりました。
現地メディアでもおりづるプロジェクトの活動が報道されました。
MSNニュース:Atomic Bomb Survivors Have a Warning for the World
文:橋本舞