2025年_ヒバクシャ地球一周(Voyage120)

吉岡淳さんと被爆者による船内連続企画

原爆遺構と向き合う3つの時間

今回、カフェスローの経営者であり、世界遺産にも深い知識を持つ吉岡淳さんと、「おりづるプロジェクト」のメンバーによる連続3回シリーズのコラボレーション企画を実施しました。

吉岡さんは、広島の原爆ドームがユネスコ世界遺産に登録される際に関わった経験から、原爆遺構や被爆の歴史に強い思いを寄せてきました。
今回の連続企画は、長年温めてきた「原爆と世界遺産」「被爆の記憶をどう継承するか」というテーマを、乗船中の被爆者やゲストとともに深掘りしていく貴重な取り組みでした。

 

【第1弾】核戦争の世界を検証する

初回は、ピースボート共同代表の川崎哲さんとの対談企画「核戦争の世界を検証する」。
冒頭では、日本の首都・東京に核爆弾が投下されたという想定のもと制作されたシミュレーション番組の映像を上映。街はどうなるのか、人びとの暮らしや社会機能はどこまで破壊されるのか——現実味のある映像に、参加者からは息をのむような反応がありました。

企画対談中の様子

その後の対談では、吉岡さんと川崎さんがそれぞれの立場から核戦争のリスクやその「後」に私たちが何を残せるのかについて語り合いました。核兵器の非人道性だけでなく、破壊された後の都市の回復不能性、人間社会への長期的影響にも話が及び、深く考えさせられるセッションとなりました。

 

【第2弾】デザイナーとしてのイッセイ・ミヤケ 被爆者としての三宅一生

2回目は、被爆者の倉守照美さんとのコラボ企画。
取り上げたのは、世界的ファッションデザイナー・三宅一生さん。三宅さん自身も広島で被爆し、その経験が彼の創作活動に深く影響を与えていたことを紹介するドキュメンタリー映像を上映しました。

被爆者として感じたことを話す倉守さん

映像のあと、倉守さんは「1枚の布」という三宅さんのデザイン哲学に共鳴したと語りました。被爆の痛みや戦争の記憶を、直接的ではなく、衣服という形で表現し続けた三宅さん。その想いを、倉守さんは「決して語らない、でも確かに伝えようとしたメッセージ」として受け止めたそうです。

また、ブランド名「コロンボ(鳩)」にも平和の象徴が込められていたことに注目し、言葉ではない方法で平和を表現する力について考える機会となりました。

 

【第3弾】イサム・ノグチの平和記念碑へのこだわり

最終回の第3弾は、被爆者であり広島平和公園のボランティアガイドとしても活動している伊藤正雄さんとの企画でした。

この回では、広島の「原爆死没者慰霊碑」のデザインをめぐる、あまり知られていないエピソードが語られました。上映されたのは、彫刻家、イサム・ノグチさんに関するドキュメンタリー。実はノグチさんは、当初、慰霊碑のデザインに関わるはずだった人物です。

伊藤さん自身も、平和公園のガイドとして長年活動してきたにもかかわらず、ノグチさんが関与していた事実は知らなかったと語り、その理由について「市があえて隠してきたのではないか」と推測しました。
この発言に、参加者の多くが驚くとともに、記録や記憶の「伝わらなさ」について考えさせられました。

多くの方が聞きに来てくれました

この3つの連続企画は、吉岡さんが「ずっとやりたかった」と語る企画の実現でもありました。
世界遺産やデザイン、そして都市の歴史という切り口から原爆を捉え直し、被爆者と対話することで、これまでとは異なる視点が生まれました。おりづるプロジェクトのメンバーにとっても、新たな学びが多く、被爆や平和についての理解をより深める時間となりました。

これからも、語る人・受け取る人、そしてその記録を紡ぐ人——それぞれの立場をつなぐような企画を大切にしていきたいと、改めて感じさせられるシリーズとなりました。

(文:橋本舞)

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