3.核廃絶へのいろいろな動き

広島から豪首相へ送られた平和の書簡

5月21日、オーストラリアで総選挙が行われ、9年ぶりの政権交代となりました。最大野党の労働党が勝利を収め、アンソニー・アルバニージー党首が新首相となったのです。ICANオーストラリアの仲間たちは喜びの声をあげ、日本で暮らすオーストラリア出身の友人らも歓迎しました。

2018年の野党時代。国会議員誓約に署名

アンソニー・アルバニージーさんは、勝利の夜、「シングルマザーの息子で、公営住宅で育った人物が、首相として皆さんの前に立つことができる。オーストラリアは素晴らしい」と発言しました。その言葉の通り、母親が病気がち、祖父母に世話になることも多く、障害年金で苦労の絶えない環境で育ったそうです。子どもの頃から政治的な意識を持ち、同性婚の権利や騒音問題など、数々の運動に取り組んできたアルバニージー首相。私たちをも喜ばせたのは、核兵器禁止条約を強く支持していることでした。労働党は、条約への署名・批准を公約に掲げており、オーストラリアにおける核軍縮政策の新たな時代の到来を予感させるものとなったのです。その勝利から1か月後の核兵器禁止条約第1回締約国会議には、オーストリアを代表してスーザン・テンプルマン下院議員がオブザーバー参加し、参加した締約国やNGOらと核兵器の危険に対する懸念と核廃絶への意志を共有しました。

締約国会議に出席したスーザン・テンプルマン下院議員(右)

 

この政権交代に、一通の手紙と折り鶴に核兵器廃絶の望みを託したのが、広島の被爆者・田中稔子さんでした。核依存国という点で同じ立場にあるオーストラリアの方向転換は、必ずや日本政府への影響となると信じ、一歩踏み出すよう促したのです。田中さんに協力してくださったのが広島のNGO・ANT-Hiroshimaのみなさん。オーストラリアのイメージカラーである緑と黄色の折り鶴を作り、首相宛に送ってくれました。稔子さんの手紙には、ロシアによる核兵器の使用を示唆を、原爆の惨状を、身をもって知っている被爆者として、容認できず、怒りを覚えていること、そして「無念の死を遂げた多くの市民、友人達の想いを、彼らに代わって伝える義務を私は負っている」と力強く訴えました。
Ant-Hiroshimaのみなさん、折り鶴作成の様子はこちらからもご覧になれます:https://www.ant-hiroshima.org/blog.php?hdn_cmd=__DETAIL&id=184&lang=jp

オーストラリア政府に送った手紙、千羽鶴、書籍

9月16日、アルバニージー首相の代理として、地球規模課題担当秘書官から、田中さん宛に返事が届きました。その手紙には、「豪政府は、人類が直面し続ける核のリスクに対する懸念をあなたと共有し、その使用が、壊滅的な結果につながることを認識しています」「核兵器禁止条約の締約国ではないが、『核兵器のない世界』という締約国の大きな志を共有し、軍縮への道筋を明らかにする建設的に関与します」と書かれ、6月の締約国会議へのオブザーバー参加に触れていました。政権交代から1か月という短い期間で決断し、具体的に動く政府のこの言葉には、信頼と希望を感じます。

首相就任から1年を迎え、核軍縮をライフワークとする岸田首相の姿勢をどう評価するか、ピースボート川崎哲のインタビュー記事が毎日新聞(10月12日付)に掲載されました。

首相の「核兵器のない世界」は言っただけ ICANの期待と失望

毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20221011/k00/00m/010/087000c

オブザーバー参加という具体的な行動に移せず足踏みをした日本政府は、本気で核兵器廃絶を求めているのでしょうか。広島からの願いに丁寧に答えた豪政府に比較され、数々の手紙に返事をしない岸田首相の姿勢が、その答えを物語っています。いま、日本各地で条約批准を求める署名や意見書の動きが見られます。本当の「聞く力」を持ってもらうか、「聞く力」を持つリーダーを選ぶか、私たちも工夫しながら行動を起こしていきたいと思います。

文:ピースボート 松村真澄

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