2008年_第1回ヒバクシャ地球一周(第63回ピースボート)

船の引っ越し、そしてモナリザ号による最初の寄港地マルタでの交流

(クルーズの新たな主役、モナリザ号)

前船クリッパーパシフィック号での度重なる遅延により、大幅にスケジュールの変更を余儀なくされた63回クルーズ。このままでは今後の寄港地でのおりづるプロジェクトの証言・交流活動に支障を来すことはおろか、クルーズの運行自体に甚大な影響を及ぼすことは避けられなくなった。そのため、ギリシャ停泊中に船をモナリザ号に乗り換えることに急遽決定した。
今後の旅程を考慮すると、5日間ですべての引っ越し作業を完了させなければならなくなった。一般参加者からもボランティアを募り、機材や参加者の荷物を移すこととなった。老いも若きも、予想以上のボランティアが集まり、なんとか予定していた11月6日の出港に間に合うように引っ越しが完了した。

(人海戦術を駆使しての引っ越し作業)

さて11月6日、無事にギリシャを出港した63回クルーズ一行は、2日後の11月8日、地中海のほぼ中央に位置する小国、マルタ共和国に到着。ここマルタでのおりづる交流は地元で平和・人権活動を行うピースラボラトリー、通称ピースラボというNGOの訪問・交流である。マルタでは、エリトリアやソマリアなどアフリカ大陸からヨーロッパを目指し船で密航する人々が、地中海を縦断できず、辿り着く事例が絶えない。彼らの基本的人権を尊重し政府による不当な扱いがされないようさまざまなケア・サポート活動を行っているマルタで唯一の団体が、このピースラボである。

小規模な交流のため、ヒバクシャの中から5人を選出し、寄港地である首都バレッタから車に揺られ、約30分で郊外にあるピースラボに到着。キリスト教の修道院を母体に、ピースラボとしての活動を行っているため、キリスト教に関する彫像や絵画が目につくが、敷地内のあちこちに平和・人権活動に尽力したガンジーやキング牧師ら先達たちの胸像が飾られており、ここが平和活動の拠点であることを物語っている。

(テレビの取材を受ける川副忠子さん)

我々一行を出迎えてくれたのは、ピースラボの設立者であるミントフ神父。現在80歳を超える神父は、冒頭、自分が大学生当時、ラジオで原爆投下のことを知り衝撃を受けたと語り、その犠牲者に会えるのを心待ちにしていたと挨拶した。また毎年8月にはヒロシマ・ナガサキの追悼集会を開いているという話も聞く。おりづるからは、中西巌さん、佐藤廣枝さん、川副忠子さん、内藤達郎さん、藤井美津江さんの順番でそれぞれの被爆体験が語られた。事前にミントフ神父が地元メディアへ積極的に働きかけをしてくれたおかげで、テレビ局3社、新聞社2社の取材陣が集まり、それぞれのヒバクシャに対して個別にインタビューを行うなど、活発な取材活動を展開した。

(スライドショーを使って被爆体験を語る内藤達郎さん)

(中西巌さんはガンジー像前でのインタビュー)

今回の交流をコーディネートしたスタッフによると、マルタでメディアが5社も集まることは珍しく、取材先でも短時間の滞在で終わることが多いという。また島国であるマルタは保守的なお国柄で、国外のことに対する意識は低く、これまでは核にしても直接的な脅威ではないという認識が根強かったそうだ。ところが数日前にヒバクシャがマルタを訪れるという告知をネットでしたところ、若者によるコメントの書き込みが多く見られたそうで、メディアによる熱心な取材やネットへの書き込みというエピソードから、核問題に対する関心の高さが伺えた。

(佐藤廣枝さんから折り鶴のレイを受けるミントフ神父)

帰り間際に案内された礼拝堂には、歴史上、平和や人権に関するさまざまな出来事や人物が左右の壁一面に描かれており、その中に原爆によるキノコ雲の絵があった。参加した中西巌さんは「遠いマルタの地で、原爆投下を人類が決して忘れてはならない出来事と捉え、毎年8月に原爆に関する活動をされていることを知り、あらためて反核・平和に対する思いを強くした」と語った。

(壁に描かれた原爆投下によるキノコ雲の絵)

(ミントフ神父を中心に記念撮影)

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