2025年_ヒバクシャ地球一周(Voyage120)

朝鮮・韓国人被爆者から見たヒロシマ・ナガサキ

「ヒバクシャ」と聞くとどんな人を思い浮かべますか?
原爆投下時の広島・長崎には、日本人だけでなく朝鮮半島や東アジアの人々、アメリカ・オランダからの捕虜などさまざまな人が住んでおり原爆の被害に遭いました。しかしその事実はあまり知られていません。
なぜあまり知られていないのか、具体的にはどんな人がいてその後はどんな生活や活動をしてきたのかを伝えるとともに、国籍が異なるピースボートスタッフが互いに、原爆や核兵器に関してどのように思っているのかを共有する企画を実施しました。

企画の初めに、おりづるプロジェクトでも乗船いただき2022年に亡くなった被爆者で在日韓国人2世でもある李鍾根(イ・ジョングン)さんの被爆証言動画を流しました。

今の時代以上に在日韓国人への差別がひどかった当時、イさんは韓国人だということを隠し「江川政市(えがわまさいち)」という日本名を使い国鉄の鉄道員として勤務していました。そして被爆後ひどい傷を負い、イさんの体にウジ虫が湧いた姿を見た両親から「(いっそのこと楽になるように)死んでくれ」と言われたことや、被爆者として在日韓国人として二重の差別を受けていたことを映像で話していました。

企画を聞きにしていた、李鍾根(イ・ジョングン)をよく知る伊藤正雄さん

その動画の後はピースボートの川崎哲から、当時の歴史的背景として、日本の植民地支配のもと、戦時労働力として連行・動員されていた人たちを含む中国人や朝鮮半島出身者、東南アジアからの留学生や捕虜であった米国人、オランダ人、オーストラリア人、イギリス人、カナダ人など多くの日本国籍以外の人がいて、その人たちも原爆の被害者となったことが説明されました。
広島では1945 年末までの約 14 万人の死没者のうち約 10 人に 1 人が朝鮮半島出身者であったといわれています。
また、動画に出ていた李鍾根(イ・ジョングン)さんと初めて出会ったときの話や、ピースボート乗船をきっかけに日本名ではなくパスポートに書かれている韓国名で被爆証言を始めたエピソードを話します。
そしてイさんだけでなく、韓国の被爆者援護活動に尽力した郭貴勲(カク・キフン)さんや、韓国原爆被害者協会の会長で、日本被団協のノーベル平和賞授賞式に公式代表団としてともにオスロを訪れた鄭源述(チョン・ウォンスル)さん、日本人被爆者で海外へ移住した在外被爆者の人たちを紹介しました。

そして会の後半は、ピースボートスタッフのキム・ボラとキン・ウォンミョンが登壇し、それぞれが原爆に関してどのように思っているのかを共有します。

韓国出身のキム・ボラ

韓国出身のキム・ボラは「(日本による)植民地支配によっていろんな国の人が住んでいたのに、なぜ『日本人だけが被爆した』という印象になっているのか。大前提の認識が違うことに憤りを感じる」と発言。また、今回の登壇に向けて事前に読んだ被爆者の書籍で「韓国に帰ってきた被爆者は国から補償されなかっただけではなく、本来、同じ苦しみを体験し分かち合えるはずの被爆者の間でも、健康状態などにもとづく分断や対立があった」という事実を知り心を痛めたことを共有してくれました。
在日コリアン三世のキン・ウォンミョンは「そもそも『在日コリアン』という言葉が伝わるのかいつも疑問に思っている。広島の平和公園に行ったことのある人に何度も会ったことがあるが、ほとんどの人が公園内にある『韓国人慰霊碑』を知らない・訪れていないということを聞くと何のための平和学習なんだろうと思う」。知ってほしいと思う一方で「在日の人のことも知ってる?」と聞くのは、その話題に興味を持ち始めた人たちに対して水を差すような気がしてなかなか言い出せない、と自身の中の葛藤も共有してくれました。

自身の葛藤を話すキン・ウォンミョン

日本の教育システムの中に、戦時中の加害の歴史を伝える部分が重要視されていないことや、その後も知るきっかけがないまま過ごせてしまう社会にも問題があるのではないか、という意見もありました。

一回の企画や話し合いだけで解決するテーマではありませんが、お互いの歴史認識がどのように違うのか、「知らない」という状況が相手にとってどのような印象を与えるのかを知り、対話を続けることが東アジアの平和構築に繋がっていくと信じています。

(文:橋本舞)

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