第1回おりづるプロジェクトに参加された長崎の被爆者・池田隆さんが、福島
の原発事故を受け、菅総理宛に「原発事故に対して首相が今行うべき喫緊の決断」
と題した手紙を3月31日付で送付しました。ピースボート事務局にお知らせを
いただきましたので、ご本人の了承を得て、以下に掲載します。
なお、池田隆さんは第1回おりづるプロジェクトの航海記を『ピースボート地
球一周の航海記 ヒバクシャ証言の航海』として出版(ブイツーソリューション,
2009.10)されています。その「あと書き」には、ご自身の原子力に関するお考
えがつづられており、その一部は原子力新大綱策定にあたってのパブリック・コ
メントの一つとして、原子力委員会のホームページでも見ることができます。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei2/ssiryo1.pdf
「長崎にて被爆しながらも、原子力タービンの設計・開発に人生を投入して来
た元技術者の虚心坦懐なる述懐である。人類に対するリスクとメリットを天秤に
掛けた上で、原子力利用の漸次撤廃政策を経験的に主張する。」
と題された、P.5~6の記述がそれです。
以下、池田隆さんから菅首相への手紙全文
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2011/03/31
原発事故に対して首相が今行うべき喫緊の決断
池田 隆
福島原発の事故を受けて、今は批判や足の引っ張り合いなどをしている時期で
はありません。今何をするかということに、日本中の英知、衆知を集め、前を向
いて進まなければなりません。
起った事故の対応に全力を投じることは当然の処置ですが、それが一段落する
前に国内原発で再び同様な事故が発生したならば、その時は国民の対応能力の限
界を完全に超すのは間違いないことです。まさに日本は破滅の一途をたどること
にもなるでしょう。
かかる事態を避ける唯一の方策は即刻運転中の全ての原発を一時停止し、保管
する核燃料棒の安全管理に全勢力をかける事です。
さすれば計画停電はいっそう厳しくなり、全国規模になります。経済活動も一
時沈滞するでしょう。被災地から離れた地域では、そこまでの必要性を感じない
人もいるかも知れません。しかし、かかるマイナス要因を踏まえても万難を排し、
万一の事態に備えるのが危機管理の要諦です。国全体の安全、経済、厚生などを
総合して判断し、かかる指示を出せるのは首相ひとりしかおりません。
第二次大戦の後半において当時の首相の優柔不断の行動によって日本が破滅状
態になったと言う国民の貴重な歴史的体験をこの国難に対しぜひ思い起こして下
さい。首相として周囲の諸言から一旦距離を置き、冷静沈着な判断と勇気ある決
断をなさることを国民として切に要望します。
一時停止した原発を再開するか否か、再開するならば安全対策(津波地震対策、
避難訓練、放射能拡散防止など)を如何に強化するか等の判断は福島原発事故が
とりあず一段落し、安定な保管状態になってから、国民全体や識者の意見を反映
して行っても遅くはないでしょう。
とにかく今は二度目の原発大事故が間を置かずに発生することが何よりも危険
であり、その防止が最優先です。それには新たな何の設備も人も要りません。首
相の一決断と一指令で済みます。
千年に一度とか百年に一度とか言われる大地震や大津波が福島原発事故が一段
落するまでの期間(一年か十年か分りませんが)に別の原発付近の地域で再び起
こる確率は非常に小さいと思われがちですが、一度目の事象発生後の現在では二
度目の事象が発生する確率は一度目すなわち福島原発事故以前と何ら変わりませ
ん。因果関係や理屈を抜きに、「二度ある事は三度ある」と経験的に言われてき
ました。たしかに原因は色々でしょうが、原発についてもスリーマイルアイラン
ド、チェルノブイリの次に福島で大事故が起こりました。
せめて福島原発事故対策が一段落するまでの期間は日本国内の原発において四
度目の大事故が起こらぬように、まやかしの安全神話によるのでなく、その発生
確率を正真正銘のゼロ(すなわち全原発の即時一時停止)にしておいてください。
池田隆
なお今年の1月に原子力委員会の原子力政策決定のための国民の意見募集に対
して拙著「地球一周の航海記」のあとがき部分を抽出して私個人の経験的な意見
(http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei2/ssiryo1.pdf)
を提出したのですが、そこで述べた心配事象があまりに直ぐに現実として発生し、
自分の無力さが悔まれて仕方ありません。
池田隆 拝
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