「5人でも10人でも良いから生の声を届けたい。みんなにもっと関心を持ってもらいたい」
そんな言葉から始まったのが、おりづる座談会。
通常、船内で証言会を行う際には、テーマに合わせて50人~150人ほど入る会場を使い分けながら、マイクやプロジェクターを使用して、より多くの人に声が届くように企画します。一方、この座談会は、たとえ人数は少なくても、より身近な距離で対話が出来るように、関心のない人もふらりと立ち寄れるようにと、船内で一番人の行き交うスペースの一角で行っています。
「最大20名ほど座れる畳のスペースで、毎日11:30~12:30の1時間。定期的に交代しながら、それぞれが話したいテーマで準備しましょう!」ということで、企画の内容もそれぞれ個性が出ます。
例えば、16歳の時に広島で被爆した服部道子さんは「とてもじゃないけど、自分の人生をたった1時間や2時間では語りきれんのよ」と10回シリーズで企画。戦前の暮らし、戦中の食生活、8月6日の話①、8月6日の話②…最後は、「寂しい一人暮らし」というテーマまで(!)。
既に船内には「はっちゃんファン」がたくさんいます。毎回顔を出してくれるレギュラーメンバーから、「今日が初めて」という方まで。「これが自分にとっては最後の証言だと思ってるんよ」そう言いながら、会を重ねるごとに増えていく参加者の皆さん一人一人へ、丁寧に、詳細に、熱を込めてお話される姿には、毎回胸がグッときます。
続いて坂田尚也さんは「太平洋戦争の話」。太平洋戦争に関するDVD10巻セット全612分(!)という映像集から、図説や書籍、証言集、新聞記事、軍票の原本などなど。日本から持ってきた段ボール2箱分ほどの資料を駆使しながら、膨大な知識をかいつまんでお話しなさいます。
服部さんの会とはまた違って、お客さんは男性が多く、日頃船内で見慣れないような方が、貴重な資料に目を輝かせながら坂田さんの話に耳を傾けている様子が印象的です。
DVD、図説、証言集などたくさん持ってきた資料を
活用しながら丁寧にお話されました
また、つい先日(5月13日)は、中村元子さんの「もっちゃんと話そう」という企画を行いました。人前で話すのが苦手と笑う最年少被爆者の中村元子さんは、ご自身が一番気になっている「放射能と被ばく」の不安についてお話しました。もっちゃんのひたむきで謙虚な姿に、実は隠れファンが多いようで、なんと畳のスペースがぎっしり埋まるほど、30人を超す人々が聞きに来ました。
やはりテーマが気になるのか、参加者層は女性が多め。若い方からご年配の方まで、熱心に耳を傾けていました。個人的にとても嬉しかったのが、おりづるメンバー全員が応援にかけつけていたこと!一生懸命、言葉を探しながらお話しするもっちゃんを、優しく見守りつつも、ちゃーんと一人一回、自分の意見を言って満足げに帰って行くおりづるメンバーの様子に、思わず、もっちゃんと顔を見合わせて笑ってしまいました。
「放射能と被ばくの不安」というテーマということで、
女性を中心に30名ほど集まりました!
最近、被爆者の皆さんと企画をつくりながら、聞き手が聞き上手になればなるほど「そういえば、こんなエピソードがあるよ」「いま、ふと思い出したんだけど、このときはこんなことを思っていたなぁ」と、心の奥の引き出しから少しずつ記憶のかけらがあふれ出てくることに気がつきます。
被爆の経験を「継承」するためには、もちろん知識や情熱も必要ですが、それ以上に「話し手」と「聞き手」、互いの信頼関係が何よりも重要なのだなーと実感する日々です。
旅が終わるまで残り約40日。まだまだ船内は可能性に満ちあふれています。
(ピースボート 古賀早織)
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