3.核廃絶へのいろいろな動き

被爆75年 長崎と世界をつなぐ オンライン発信の一日

8月9日、長崎は原爆投下から75年を迎えました。今回現地入りしたのは、ピースボートの川崎哲、渡辺里香、松村真澄に加え、過去スタッフのチェマ・サリでした。できるだけ多くの人と、この悲劇と核廃絶の重要性を考えたいと思い、さまざまな形での発信を試みました。

平和祈念式典に参列して

川崎哲がピースボート、ICANを代表して、原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に参列しました。長崎に原爆が落とされたのは、午前11時2分。真夏の太陽がほとんど真上に来る時間です。雲一つない青い空と響き渡るセミの声。その中で被爆者、遺族、学生などの代表者が献水と献花をし、黙とうを捧げました。1945年の8月9日も暑かったであろうこと、その日は原爆の熱線で比べ物にならない温度であったこと、、、毎年のことではありますが、想像すると胸が苦しくなります。

その言葉にできない胸の苦しさを軽くしてくれたのが、田上富久・長崎市長の平和宣言でした。今年は、新型コロナウィルスを引き合いに出してこのように話しました。「新型コロナウィルス感染症が自分の周囲で広がり始めるまで、私たちがその怖さに気づかなかったように、もし核兵器が使われてしまうまで、人類がその脅威に気づかなかったとしたら、取り返しのつかないことになってしまいます。」そして、昨年長崎を訪問されたローマ教皇の「今、拡大しつつある相互不信の流れを壊さなくてはなりません」という言葉を引用しました。それを受けて、「相互不信の流れを壊し、対話による信頼の構築を目指してください」と強く世界各国の指導者に訴えかけました。

現在世界中が直面している感染症の問題は、確かに想像をはるかに超える大きさで人々の生活と経済に影響しています。そして、近年自然災害の被害があるたびに「想定外の規模だった」としながらも地球規模で起きている気候変動の根源を正そうとしない私たち人間社会。同様に、核兵器が使われるまで人類がその脅威と残虐さを想像できずに気づかないとしたら、田上市長の言うように取り返しのつかないことになってしまいます。

想像力を働かせて、共感の心をもつために大きな役割を果たしてきたのが、75年前の被爆を直接経験した被爆者です。彼らから話を聞けるうちに、そして彼らの今までの不断の努力に応えるためにも「核兵器をなくすべきだ」という人類の意思を明確にした「核兵器禁止条約」を発効させることが急務であると改めて実感しました。8月6日と9日に合わせて4か国がこの条約に批准したことからも、世界がその方向に向いていることが伝わってきます。

 

長崎原爆資料館にてノーベルメダル展示

ピースボートがICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の国際運営団体として受け取ったノーベル平和賞メダルの公式レプリカを、長崎原爆資料館に展示していただきました。期間は8月8日~22日。核兵器禁止条約採択の喜びの採択や署名・批准国の最新数を明記した新しいパネルなど、約10枚の解説パネルが隣に置かれています。
期間中、よろしければお立ち寄りください。
■川崎さんのインスタグラム:
https://www.instagram.com/tv/CDnRjL9py6A/?utm_source=ig_web_button_share_sheet
■2020年8月9日 長崎新聞「ICAN受賞のノーベル平和賞メダル展示 原爆資料館にレプリカ」:
https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=665038019928573025

最新の署名国・批准国リストの隣に並ぶメダルと賞状

平和式典前、もう一度原爆資料館を見学し、その様子をおりづるプロジェクトのインスタグラムで発信しました。
https://www.instagram.com/tv/CDpik3njFB3/?utm_source=ig_web_copy_link

原爆資料館を見学

 

爆心地公園からインスタライブ

インスタライブ中継の様子

午後3時、平和式典を終えた長崎の様子を伝えるべく、おりづるプロジェクトのインスタグラム・ アカウント(@hibakusha_global)からインスタライブを行いました。75年前の今日、この500m上空で爆発したことを想像しながら、当時のまま残されたモニュメント、地層(食器など生活用品が散乱している様子)を川崎さんが紹介し、平和式典の様子、核兵器禁止条約の現状などについて話しました。トークには渡辺と松村も参加し、今まで被爆者のみなさんと海外で経験してきた交渉や面会などについて話しました。
おりづるプロジェクトのインスタグラム:
(前半)https://www.instagram.com/tv/CDqWZzfjc0u/?utm_source=ig_web_copy_link
(後半)https://www.instagram.com/tv/CDqX1z4D6KK/?utm_source=ig_web_copy_link

インスタメンバー

ベアトリス・フィンICAN事務局長と対談

夕立激しい4時半、ICANのベアトリス・フィン事務局長との30分トークが行われました。カリブの小さな島国、セントクリストファー・ネイビスの条約批准を歓迎し、本日の平和式典での平和宣言からの重要なポイントを話しました。引用された文章は、「3年前に国連で採択された核兵器禁止条約は『核兵器をなくすべきだ』という人類の意思を明確にした条約である。核保有国や核の傘の下にいる国々の中には、この条約をつくるのはまだ早すぎるという声がある。そうではない。核軍縮があまりにも遅すぎるのだ」という部分でした。
ベアトリスは、広島におさまらず、プルトニウム爆弾を試したいがために長崎も犠牲になったことにも触れ、改めて「長崎を最後の被爆地とするべき」と強調しました。
ICANのインスタグラム
https://www.instagram.com/p/CDqTlYHphFp/

原爆資料館前から発信

長崎県、長崎市、赤十字国際委員会(ICRC)主催の「被爆75年事業 核兵器が存在することは 人類にとって何を意味するのか?ー コロナ危機の最中に考える ー」

18時からは、赤十字国際委員会と長崎県・長崎市の主催するイベントがありました。第一部の「被爆の記憶を受け継ぎ、未来へと」では、Yahoo! ニュースプロデューサーであり立教大学大学院 教授の宮本聖二さんが「世界に向けて発信することの大切さ」を説き、Yahoo動画でも力を入れていると説明しました。それに対し、長崎の田上富久市長からは、長崎市も最近平和教育の方針を変えたことが紹介されました。つまり、被爆者から直接話を聞くだけでなく、異なる考えの人たちと語り、平和を積極的に作る人になるように促している、というのです。大変興味深いお話でした。
ナガサキ・ユース代表団などを経験した岩髙史織さんや、田平由布子さんからは「海外の人とのネットワークを強くして継続したい。英語でのオンライン証言会に挑戦したい。と同時にオンラインでは終わらせない工夫が必要」との意見があがりました。
これは、まさにピースボートやICANが行っていることと重なる気がするので、繋がっていけたらと思いました。

同イベントの第二部の「核兵器のない世界をどう構築するか」には、ICANのベアトリス・フィン事務局長も参加しました。このセッションは、ファシリテーターのジュリアン・ボーガーさん(世界情勢エディター/英ガーディアン紙)の「現在は軍備管理の墓場となっているのではないか?」という刺激的な問題提起から始まりました。
それに対して、ICANのベアトリスは「核兵器禁止条約こそが、現在の軍拡競争の流れを変える」と答え、マインドシフトをも起こしうることを話しました。
国連軍縮担当 上級代表の中満泉さんは「安全保障のためには軍縮と軍備管理がツールとなる」から始まり、軍備管理の墓場にしないためにも核兵器禁止条約の重要性を訴えました。そして、来年2月に失効する新STARTの行方、軍縮をめぐる条約・規範が崩壊することへの懸念を強く示しました。
元国連事務総長の潘基文さんも、新STARTが来年2月に失効することへの懸念、朝鮮半島の非核化のための世界的な軍縮協力が必要であることを語りました。
次の課題として、「核兵器の近代化」にも触れると、ベアトリス事務局長は今まで核兵器・軍縮というと無機質で理論的な議論ばかりであったことを指摘し、人間の問題として語り・伝える重要性を伝えました。
中満泉さんも、顔を思い浮かべながら被爆者のストーリーを伝えていくことに多くの若者が参加していることに励まされる、と加えました。また様々な方法で対話や関わりを深めていくことが大切で、気候変動、セクシャルハラスメント、黒人の人権に対する世界の若者の取り組みも参考にしつつ、共に声を上げることを提案しました。
赤十字国際委員会(ICRC)副総裁のジル・カルボニエさんは現在の核兵器が爆発したら、ICRCのような人道組織も国も対応不可能で、核の使用を予防するための啓発活動に力をいれていることを紹介しました。

このイベントを聞き終え、若者も関わり、積極的に様々な新しいツールを使い、被爆者のヒューマンストーリーを語り、気候変動などの他の世界規模課題への取り組みと連動して、核兵器を違法化して禁止していくことが必要だと改めて思いました。

一部も二部も興味深い議論がされました

 

Choose Life Project に出演

9日を締めくくるオンライン配信は、20時から行われたYoutube配信番組「Choose Life Project」の出演でした。Choose Life Projectは、報道番組やドキュメンタリー制作に携わる有志の方々で始めた映像プロジェクト。興味深いテーマとゲストでの番組作りを行っています。
川崎さんが選んだ場所は平和公園、ライトアップされた平和祈念像の前でした。安田菜津紀さんの進行で、ヒバクシャ国際署名の林田光弘さん、核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)の田中美穂さん、11年前にピースボートに参加した水曜日カンパネラのコムアイさんがゲストとして出演。核兵器禁止条約に対する日本政府の姿勢、市民側からの働きかけなどについて、具体的な意見交換が行われました。一人ひとりが自分が無力だと思うことなく、工夫をしながら発信し続けよう、知らない人にはきっかけを作っていこう、というメッセージが伝えられました。
Choose Life Project Youtube配信
https://www.youtube.com/watch?v=LpLqVdH2b60

撮影風景

 

被爆75周年の発信を終えて

被爆75年、コロナ禍の影響で長崎を訪れることができなかった方も多いと思います。今回の配信で、少しでも現地の様子や核兵器を取り巻く状況が伝えられていたら幸いです。
核兵器禁止条約は、広島の日に3カ国、長崎の日に1カ国が批准しました。発効まで6カ国、もう間近。Choose Life Projectのタイトルにもなったように、「核兵器はなくせる」日に向かって進んでいると実感しました。

すべての配信を終えて

ピースボート 松村真澄・渡辺里香

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