タヒチ・パペーテからオーストラリア・シドニーまで、今クルーズの水先案内人として乗船したキャスリン・サリバンさん。その間、講座を5回、ヒバクシャ向けのワークショップ「フィッシュボウル(金魚鉢)」を2回、パネル討論への参加と、大活躍を見せてくれた。
(パートナーのケビンさん(左)とキャスリンさん)
キャスリンさんの講座の特徴は、座学ではなくワークショップ形式で、五感を積極的に使うことにある。
例えば、彼女がパートナーのケビンさんと最初に行った『耳から「軍縮」を考えよう!』は、ディープリスニングという聴覚にフォーカスしたもの。BB弾1発を落として容器にぶつかる音を第二次世界大戦に使用されたすべての兵器の火力に相当すると仮定して、現在、世界にある核兵器の火力を同じBB弾の音で再現してみると、果てしなく続くと思えるほど長く感じられる。同じ回では、赤いリボンを使って、アメリカの国家予算の内訳を軍事、福祉などの目的別に長さで示した。『広島・長崎の遺物』という回では、実際に被爆地から見つけ出された溶けたガラス片などの遺物を用いて、参加者の想像力に訴えていった。
(ずば抜けて突出しているのが軍事費)
また「グレート・ターニング」という3回連続のワークショップ。これは現在の世界が、産業牽引型から生命維持型の社会への移行という大きな転換点に直面していることに着目したもの。実際にそのことに気づいている人々は少なく、日々の生活に追われているだけという現状を打破し、環境問題をはじめ地球上のさまざまな問題に対し、地球市民の一員として何をなすべきかを考えようというもの。そこでの重要なポイントは、「行動を起こすこと」、「新たな選択肢を創造すること」、「新たな視点を持つこと」の3つだという。
2回目のセッションでは、そのことを認識してもらうため、20年後の核兵器廃絶が達成された日にタイムスリップしたという設定で、参加者が数人のチームに分かれ、どうやって達成されたのかというテーマで新聞を作るという形式を取った。
そして3回目では、3人グループになり、グレート・ターニングの一員として今後何をしていくか、それぞれが話し役、聞き役、記録役に分かれて進めていった。
(体を使ったワークショップが特徴)
さらにヒバクシャ向けの「フィッシュボウル」では、7つ用意した椅子のうち、5人が座り、2席を空けておくという形を取った。会話の活性を図るため、常に5人が着席しているのが前提だが、発言したい人が空いている席に座った場合、誰かが抜けて進めていくというやり方だ。テーマは「証言」について。
(ヒバクシャ向けワークショップ「フィッシュボウル」)
参加したヒバクシャからは、さまざまな意見が上がったが、その中のいくつかの言葉を拾ってみた。
「(ヒバク時の記憶がおぼろげな)若いヒバクシャでも、自分なりの証言ができるという自信がついた」。「各寄港地で、反戦反核活動をしている人たちと知り合うことができ今後の励みになった」。「これまで証言らしい証言をしてこなかったが、今は使命感を持つことができた」。「海外で証言する場合、まず日本の戦争加害について触れるべき。自分たちだけが被害者ではないのだから」など。
取り上げたのは発言のほんの一部だが、活発な意見交換に終始した。なかには「証言はどうあるべきか、というテーマで内容を深めることができたが、できればこのクルーズがはじまった頃に行ってもらいたかった」という声も聞かれた。
キャスリンさんは「軍縮活動を行う私にとって、ヒバクシャは先生。少しでも彼らが証言するお手伝いになれば嬉しい」と語り、すべてのワークショップに参加し、積極的にビデオ撮影をしていた出口輝夫さんは「こういう形式の話し合いは初めての経験。日本に帰ってからの参考にしたいから、できるだ記録を残したいと考えた。今後にうまくつなげたい」と感想を述べた。
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