2021年5月7日ピースボートの「おりづるプロジェクト・オンライン」第26回目の証言会は、ベネズエラにて開催しました。
約20名の参加者に向けて、外務省アジア中東オセアニア副大臣、カパヤ・ロドリゲス大使から挨拶を頂き、以下のような言葉に参加者が一つになりました。
「今回のような核兵器廃絶を訴える運動を、私たちもサポートしたいと考えています。もちろん、1月22日に発効した核兵器禁止条約にも取り組んでいます。そして、証言者たちの勇気ある努力に、ベネズエラを代表して心から感謝し、私たちの大統領を含む国民からの愛と友情を送ります。私たちもそれに答え、達成に向けて旗を振っていきましょう。」
被爆証言をしていただいた田中稔子さんは、ピースボートの船旅でベネズエラを訪れ、ラグアイラ市長に「1945年に広島で何が起こったか世界に話すことは、生き残ったあなたの責任だ。」と言われたのがきっかけで、証言活動をはじめました。田中さんは6歳10か月の時、小学校へ向かう途中で被爆しました。今回は当時の被爆体験と、証明されない被爆者としての健康被害についてお話しくださいました。
因果関係の証明が出来ない健康被害
原爆の被害は被爆したその時だけではないのです。「火傷の跡は何年もかかってやっと薄くなりましたが、心の傷と放射線被爆の影響は残ります」と話す田中さんは、10代前半から症状が出始めたと言います。白血球の数値異常、微熱と堪えがたい疲労感、年中絶えない口内炎や吹き出物だけでなく、ご飯を飲み込むのも一苦労だったと。若いころから幾度となく骨折をし、膝や目の白内障の手術などもしてきたが、原爆との因果関係を認めるのは現在の法律では難しいそうです。
被爆者の方が特に心配していることは、被爆二世である子どもたちの健康に関する問題であると言います。結婚した当時、ご主人は稔子さんが被爆者であることを気にしていないように見えていましたが、不安をあえて声に出してこなかったようだとわかった瞬間があったそうです。生まれてきた赤ん坊の手足の指を急いで調べたのです。当時は被爆者に奇形の子どもが生まれるという話があったからではないかと話します。2世の影響は今もわからず、医学的には証明されていないのです。
被爆二世にはその後、多くの病気が出ました。若くしてがんを患う被爆二世たち。田中さんは、「医者に因果関係の立証は出来なくても、周囲の病気の多さから被爆者は『確率的影響』として、原爆の影響を実感しています」と話しました。
ヒバクシャを生んだ国ですべきこと
2011年3月11日、福島第一原子力発電所事故が起こりました。原爆にも、第五福竜丸にも、チェルノブイリ原発事故にも学ばず、自国で放射線物質を放ち、ヒバクシャを生み出しているのです。
田中さんがニューヨークで証言会をした際にアメリカの学生や市民に必ず聞かれることがあるそうです。「日本は核兵器でひどい目にあったのに、なぜ多くの原子炉を作ったのか?」という疑問です。そのたびに答えに詰まってしまうといいます。
田中さんは、自ら新しいヒバクシャを生んでいる日本の現状から目を背けず、同じような悲劇を繰り返さないため、「核のない世界」を目指すためにこれからも話続ける責任があると語ります。
また、唯一の戦争被爆国である日本が条約に反対していることが大問題であると話すとともに、日本には少なくともオブザーバーとして条約会議に参加してほしいと切に訴えました。
世界に民族や国境を超えて友人を
田中さんからのお願いは一つです。
「世界に民族や国境を越えて、新しい友人を作ってください。将来、もし国家間で問題が起こった場合、友人の顔が見える国と、経済や覇権のために戦争をし、爆弾を落とす気持ちには、簡単にはなれないはずです。その躊躇する気持ちが、市民にも為政者にも大切です。将来若い人々の頭上に、戦争や核兵器のない、きれいな青空がいつまでも広がっていることを心から願います」
証言の後には国連人権部・平和連帯委員会代表ガブリエル・アギーレさん、外務省平和・協力部長グスターボ・カルネイロさんから温かいコメントをいただきました。
そして会の終わりには、セイコウ・イシカワ駐日ベネズエラ大使からもお言葉を頂きました。
「私たちは核兵器禁止条約の締約国です。この企画は、私たちの核廃絶への思いをより強くし、平和を持続させるためのイニシアティブを促進し、支持していく決意を深めてくれる良い機会となりました。ベネズエラは、可能であり必要とされるゴール、「核兵器のない世界」の確立に向けて、引き続き取り組んでいくことを約束します。」
ピースボートを通して世界をめぐり、各国の人との交流をしていくことがこれから先の未来、「平和」を実現するための小さいようで大きな一歩であると実感した瞬間でした。
これからも、証言会で世界に被爆者の声を届けるとともに船旅で世界と人々をつなぐ架け橋となれるように頑張っていきたいと思います。
文:河合由実
編集:松村真澄、渡辺里香