5月29日ドイツ在住の日本の方に向けて、27回目のオンライン証言会が開催されました。
今回、被爆証言をしてくださったのは、千葉県で腹話術で証言をされている小谷孝子さんと相棒のあっちゃん。そして、同じく千葉県に住む被爆者の中村紘さんがクイズ形式で原子力爆弾のこと、そして自分の体験を語ってくださいました。
ドイツのブラウンシュバイク美術大学で映画を専攻しながら、日本とドイツで映像制作を続けている国本隆史さんが会の主催者でもあり進行役。国本さんは大学時代原爆を体験した方に会い、親交を温めた経験があります。そして、国本さんとパートナーのフラウケ・アーントさんは、なんと第一回おりづるプロジェクトにそれぞれ記録映像担当、通訳として参加したメンバーなのです。そこでの出会いから、現在は家族となり、ドイツに住んでいます。(国本さんが世界へ証言を届ける被爆者の姿を追ったドキュメンタリー『ヒバクシャとボクの旅』(2010)はこちら)
そこで、今回は海外に住む方にも貴重な経験を提供したいとの思いで、この証言会を企画してくれました。そんな国本さんのコメントのおかげで温かい雰囲気で会が始まりました。
参加者のみなさんとともに
「あっちゃ~ん」
という呼び声に応え、小谷さんと相棒のあっちゃんの登場です。
かわいらしくとぼけるあっちゃんと笑顔が印象的な小谷さんの証言は腹話術という、私にとって新しい証言の形を見せてくれました。
小谷さんは広島で被爆した当時、小学1年生でした。
小谷さんの家族は、お母さんと5年生の姉と3年生の兄、3歳の弟と祖母の6人家族。とても天気の良い日で兄弟4人で川で泳ぎにいく時でした。小谷さんは一人、のどが渇き、家に引き返しました。その時、窓がぴかっと光り、家の下敷きになってしまいました。幸い、小谷さんは柱と壁の隙間にいてかすり傷だったそうです。3歳の弟は、爆風で飛ばされ、お母さんがやっとの思いで探し出しました。黒い顔をしていたので、顔を拭くと、顔の皮がずるっとむけてしまいました。4日目の朝、意識のなかった弟が目を覚ましました。お母さんが口に水を含ませるとそれをおいしそうに飲んだそうです。「ひこうきおそろしいね、お水おいしいね」この一言を残して、亡くなりました。兄や姉、祖母もやけどやガラスの破片が刺さるなどの被害を負い、後遺症もありましたが、幸い命は助かったそうです。
小谷さんのお母さんは、家族のために、薬や食べ物を探している合間にも、原爆で親を亡くした原爆孤児のお世話をしていました。それを見て、お母さんがいない間寝たきりの家族の世話をしていた6歳の小谷さんは「よその子の世話をするならもっと私の世話をして」と泣いて頼んだそうです。そんな小谷さんにお母さんは、「どんなに大変な時でも自分のことだけでなく、人のことも大切にできる心の豊かな子になりなさい。」と教えてくれたそうです。そんな言葉を残してくれたお母さんも小谷さんが小学6年生の時に原爆症でなくなりました。
小谷さんは、母のように優しい人になろうと決め、幼稚園の先生になりました。そこで、腹話術を教えてくれた師匠と出会い、腹話術という方法で証言をするようになったそうです。
「戦争がないと夢が持てる」
小谷さんが語っていたこの言葉は私たち若い世代に夢を持てることのありがたさを感じさせてくれました。
今、自由な発言ができたり、夢を持って、それに向けて努力できる環境があるのは決して当たり前のことではない。語り継いでいくことで、夢をもてるこの環境をつないでいかなくてはならないと強く感じました。
小谷さんの相棒のあっちゃんは、当時3歳で亡くなった弟さんがモデルとなっているそうです。弟さんと伝え続ける平和へのメッセージに感銘を受けました。
中村鉱さんからは、視聴者参加型のクイズ形式で証言
まずは、どのあたりで中村さんと小谷さんが被爆されたのか地図を使って説明してくださりました。原子爆弾の概要では、広島と長崎の原子爆弾のニックネーム、広島はリトルボーイ、長崎はファットマンという話。また熱線の温度や爆風の威力もクイズ形式や例をつかいながらわかりやすく説明してくださいました。
一番印象的だったのは、あなたはその時どうするか?という質問です。お母さんが建物の下敷きになってしまい、お母さんは命を大事にして、その場を離れるように言います。
1-母のそばを離れずに命を同じくする
2-母の「命を大事にしてくれ」との言葉に従いその場を離れる
とても想像力が刺激される質問となりました。あの日あの時あの場で起こったことが自分事として、考えることができる質問でした。命を大事にする、わかっていてもあの場でその判断ができるのでしょうか?戦争というのは、家族を見捨てなければいけないという選択も目の前に現れるかもしれないと恐ろしく感じました。
また、中村さんは「あなたも世界中の人も全て満月」と表してくれました。相手を満月と認めることで争いはなくなる、とおっしゃいました。真っ暗な時の月やかけているときの月もあるように、人にも好きなところや嫌いなところがある。その違いを認め合う、受け入れることで少しずつ身近な争いもなくなっていくのだと思います。
参加者の中には、ドイツで精力的に活動されている方も
ドイツにも平和団体はたくさんあり、広島や長崎のイベントも行うそうです。しかし、日本人の参加者は少ないとのこと。また、ドイツは脱原発に向けて進んでおり、日本の原発問題についても話題に上がりました。
日本に住んでいる私からすると、情けなく感じました。
参加者の中には、今回小学生くらいの男の子もいて、クイズにも積極的に参加してくれました。このような多世代の人と証言会を開催することで様々な意見の交流が交差することはとても素晴らしいことだと思います。
また、今回は、被爆証言だけでなく、普段の心の持ち方まで含めた話でとても勉強になりました。腹話術やクイズという新しい証言の形により、聞いている人たちが自分事として考えることができるきっかけにもなったのだと思います。
小谷さん、あっちゃん、中村さん、国本さん、参加してくれたドイツの方々
本当にありがとうございました。
文:北畑希実
編集:渡辺里香