7.おりづるプロジェクト・オンライン

客人をもてなすのが大好きなジョージアに迎えられて

6月24日(木)の32回目のオンライン証言会はヨーロッパとアジアの境にあるコーカサス地方の国、ジョージアの平和大学の学生と開催されました。コンスタンティン・ツセレテリ先生主催で、日本語を学ぶ学生約40人が参加しました。

始めに、コンスタンティンさんが大阪に留学していた時に、広島の資料館、原爆ドームを訪れたこと、大きな衝撃を受けしばらくの間言葉を失ったこと、そしてそれからしばらくは広島の原爆について語り続けたことを紹介しました。最近は日本の文化や言語に興味を持つ学生が増え、大学で専攻する人が増えているそうです。日本に関する情報は沢山ある中で、広島・長崎、原爆のことはなかなか伝わりづらい。そんな中、今回は大変貴重な機会になる、と学生に話しました。

主催者のコンスタンティン・ツセレテリ先生。

 

証言の前に、学生の代表3人からスピーチがありました。流暢な日本語で日本文化の独自性に惹かれたと語ったニノ・ハライジェさんは、そのまま日本語でジョージアの自然、文化、ジョージアの人は客人をもてなすのが大好きなことを紹介してくれました。誰でも明るく迎えてくれるという紹介のように、ニノさんに私たちも温かく迎えられました。

日本語で話すニノ・ハライジェさん

マリアム・ツァイゼさんは、韓国語を専攻しているということですが、日本語にも興味を持っています。第二次世界大戦は学校でも学ぶが、その戦争を体験した人から直接話を聞くことはほとんどできないので、今日の会はとても貴重な機会であると話しました。そして唯一の戦争被爆国である日本には、これからもその被害の実相を語り継いでいく責任があるのではないかと指摘しました。そして、聞く方には、大量破壊兵器が人間や地球にどのような影響をもたらすものであるかを知る重要な機会になる、と。

実相を語り継ぐことが日本の責任、とマリアム・ツァイゼさん

最後にジョルジ・キジバズさんは、「戦争や内戦を多く経験してきたジョージアで、過去の戦争経験を時に懐かしむことがある。それは間違っていると思う」と述べました。どの学生からもエネルギーがあふれ、関心と意識の高さに驚きました。

過去の戦争を懐かしむのはおかしい、とジョルジ・キジバズさん

被爆の恐怖と発がんのリスク

「私は5歳の時に、広島の爆心地から3kmのところで被爆しました。海軍の将校だった父親は爆心地近くで被爆しました。その姿は数日後小さな箱に収まって戻ってきました。母親が泣き崩れたことを鮮明に覚えています。幼い私にはよく理解ができませんでした」そんな話から始まった堀江壮さんの証言。5歳だった頃から月日は流れましたが、「被爆の恐怖は今でも終わりません。」と。55歳で甲状腺異常、70歳で悪性リンパ腫と診断され、あと2週間の命だと宣告もあったそうです。入退院や投薬をして現在は通常の生活ができていますが、「体の中に時限爆弾を抱えているような不安」があるそうです。

「体の中に時限爆弾を抱えているような不安」がある、という堀江壮さん

軍事産業は決して平和をもたらしません

被爆についての話の後、アメリカを始めとする核保有国が膨大な軍事費を充当していること、巨大な軍事産業が国の経済を支えていることを説明しました。「平和国」を自称する日本でも、武器輸出こそしないものの、日本製の電子部品が多くの武器製造に使われていることも話しました。

「戦争は続いています。世界から戦争や紛争はなくなりません。経済のシステムや産業の構造を変え、新しい商品やビジネスを作らない限り戦争をなくすことはできないのではないでしょうか」と力強く訴えました。

「軍事産業は決して平和を作りません」そんな印象的なメッセージで証言を締めくくりました。

証言後、学生から堀江さんへ質問がありました。

証言を始めたきっかけは?

「私は5歳で被爆しました。当時の記憶を鮮明に思い出すことはできません。私が証言を始めたのはごく最近です。それまでは自分より悲惨な経験をしてきた方や当時の記憶がはっきりしている方たちに任せていました。その方たちが高齢になり、亡くなったり証言できなくなったりしたため証言を始めました。最近は感染症の影響で、生き甲斐である証言の機会が減り非常に残念です」

原発を巡る日本の現状は?

「約8割の日本人は原発に反対しています。しかし、原発を動かすことによって利益を得るグループの力が非常に強いため、大多数の国民の意見に反して原発は稼働しています」

「政界にも核廃絶を支持する政党はあります。与党内の政党が核廃絶を支持しています。しかし、その発言力はまだまだ弱い印象です」

核廃絶のために私たちにできることは?

「署名運動をすることと、選挙権があれば核兵器に反対する政治家を選ぶことが大切です」

「原発・核兵器を自分の問題として捉え、負のサイクルを止めること。これは私たち全員の責任であり、未来の人類への責任です。今回学んだことをこの場だけに止めず、友人・家族に伝えて欲しいと思います」

折り鶴ワークショップ

フランスから日本に留学しているソレン・ペティコルさん。

質疑応答後は、運営ボランティアメンバーのソレン・ペディコルさんが佐々木禎子さんの経験を話し、鶴の折り方を紹介するワークショップを行いました。参加者たちは動画を見ながら鶴を折りました。オンライン画面はたくさんの折り鶴と参加者の笑顔で溢れました。

折り鶴を一緒に折るワークショップ

堀江さんはご自身の被爆体験、日本の核廃絶を巡る現状、私たちができる具体的なアクションについてお話し下さいました。コンスタンティンさんも「ジョージアはチェルノブイリ事故が起きたウクライナに近く、核兵器や原発の問題を自分ごととして学ぶことは非常に大切」とコメントしていました。改めて、核兵器や原発の問題が「過去の出来事」ではなく、現在進行形で向き合うべき課題であることを実感しました。利用する電力会社を選ぶ、働く業界を決める、政治に参加するなどの日常の選択も、平和への意思表示ができる重要な機会であると感じました。この行動が何に繋がるのか、その背景を意識しながら生活していきたいと思います。普段からこの問題に向き合い、機会あるごとに話し合いの場を設け、自分にも他者にも、心の中に平和の砦を築いていく人でありたいと強く思いました。

文:安西智
編集:渡辺里香

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