7.おりづるプロジェクト・オンライン

ドイツでも被爆者の話を伝え、言葉に宿る魂に触れる作品を作りたい

「あっちゃーん」という呼びかけとともに登場した、小谷孝子さんと人形のあっちゃん。幼稚園の教諭をしていたときに腹話術を習った小谷さんは、人形と共に平和を語っていく活動を続けています。

5月と7月に、ドイツに住む人たちに原爆を体験した人々の声を届けるべく、オンラインの証言会を企画しました。海外に住んでいると原爆体験者の声に触れる機会はなかなかありません。ましてや、ドイツで生まれた子どもにとっては遠い国の過去の話です。そこで5月29日の会では、日本語がわかる人に向けて証言会を企画しました。(詳しくはこちら:https://hibakushaglobal.net/2021/06/17/online-testimony_germany

ドイツの大学生、教員、平和活動に従事する人たちと

7月3日、33回目のおりづるプロジェクト・オンラインの証言会では、ドイツ語への通訳を介して、大学生、教員、平和活動に従事する人たちなどにお話を聞いてもらいました。ドイツ西部の街ボーフムにあるルール大学をはじめ様々な団体の協力のもと、合計100名以上の方々が参加してくれました。

自分が6歳の時に経験した戦争について、小谷さんは膝の上のあっちゃんに語り始めます。8月6日、とてもいい天気でした。昼過ぎから疎開先へ引っ越す予定だった小谷さんは、出発まで少し時間があったので、兄姉と一緒に川遊びに出かけました。乾いた喉を潤すために一旦自宅に戻った少女は、突然これまでに経験したことのないほどの眩しい光に襲われます。建物に守られた小谷さんは比較的軽傷でしたが、川辺にいた兄姉たちは熱線と爆風で飛んできたガラス破片で、大火傷を負い、血だらけで戻ってきました。3歳の弟は、4日間意識不明に陥った後、母親が手のひらで小さな口に水を含ませると、「おかあちゃん、ひこうきこわいね。おみずおいしいね」という言葉を残し、息を引き取りました。

親として

僕は、2008~2009年に実施された第一回おりづるプロジェクトに参加しました。そこで、今回通訳をしてくれたフラウケと出会い、ドイツに移住しました。現在は3人の子どもと北ドイツの田舎で暮らし、今回は親の視点を持ちながら、小谷さんのお話を聞きました。

親として考え続ける国本隆史さん。今回通訳を務めてくれたパートナーのフラウケさんと。

昨日まで川で遊ぶほど元気だった子どもが、急速に衰弱していく姿を眼の当たりにしながらも、何もできないお母さんの無念さを考えた時、もし自分がその立場に置かれたら、その悲しさにどう向き合っていけるだろうかと自分に問いました。僕は怒るのだろうか。怒りの矛先を見つけられるのだろうか。泣けるだろうか。ただ泣き続けられるのだろうか。それとも感じたり、考えたりすることをやめるのだろうか。目の前の子どもに謝り続けるのだろうか。子どもの前でだけ明るく振る舞うだろうか。答えは出ませんでした。そして小谷さんから、その後お母さんが、原爆で親を失った子どもたちの世話に奔走したと聞き、その強さと行動力に感銘を受けました。子ども時代の小谷さんは寂しかったと思います。でもそうせざるを得ないものがお母さんにあった。それは何だったんだろう。直接お話を聞くことはできませんが、何だったのか考えています。

爆風でかかる圧力は象なん頭分?

小谷さんのお話の後、幼年期に原爆を体験した中村紘さんが原子爆弾の基礎的な被害についてお話をしました。「爆風でかかる圧力は、象何頭分に匹敵するか」というクイズの答えに、参加してくれた7歳の子どもが正解していて嬉しそうでした。多くの人は、その答えに顔をしかめていました。一頭の象の重さにも、僕らの身体は耐えることができません。さらに、熱線、建物の崩壊、跳んでくるガラスの破片、その後の原因不明の病気…とんでもない兵器です。

クイズ形式で説明する中村紘さん

お二人のお話の後、原爆によって受けた心の傷、その後の人生で受けた差別、語り始めるようになったきっかけについてなど、参加者から印象深い質問が寄せられました。その一つに「当時のことを話すことで、気持ちが楽になりますか、それともより辛くなりますか?」という問いかけがありました。それに対して、「一人で話しているときは辛かったんです。でも今はあっちゃんが助けれてくれます。あっちゃんがうなずいてくれることで語ることができます。そしてこの話を子どもたちが聞いてくれます。今では語ることが幸せです。」と小谷さんは答えていました。

あっちゃんの存在

あっちゃんの存在について考えました。あっちゃんは小谷さんが操る人形です。その声も小谷さんのお腹から出ています。それでも、膝の上でうなずいてくれるあっちゃんという存在のおかげで、小谷さんが語りやすくなります。あっちゃんは小谷さんにとって、幼くして亡くなった弟さんと心を通わせる機会を作ってくれています。弟さんの最期を、あっちゃんと共に演じることで、その悲しみに触れる機会を作ってくれます。そして、芸に集中することで、辛さとの適切な距離を見つける訓練になっているかもしれません。そして、腹話術と、あっちゃんの可愛らしいとぼけた反応は、重たい話を軽く感じさせる効果を生みます。そして、あっちゃんの存在は、原爆で亡くなった無数の子どもの魂に触れる通路にもなります。

被爆者の言葉に向き合い、作品へ

僕はこの一年、マイスター(自由芸術)という資格を取るために、大学院に通っています。そこで原爆体験者の方から聞かせていただいた言葉に改めて向き合い、作品を作ります。できれば、言葉に宿る魂に触れられるイメージを紡げたらという目標を持っています。今回のオンライン証言会でお話を共有してくれた小谷さん、中村さん、企画してくれたピースボートの渡辺里香さん、通訳してくれたフラウケ、そして証言会に参加してくれた友だち、知人、新しく出会った方々に感謝します。この出会いを通じて、またドイツで証言会を企画したいと思いました。

文:国本隆史(第一回おりづるプロジェクト 映像記録担当スタッフ)
編集:渡辺里香

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【編集後記】

今回、証言会を企画してくださった国本さんとフラウケさんは、7月7日に行った「おりづるプロジェクト・オンラインの報告会」にもドイツから参加してくれました。

 

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