ベルギーの港町ゼーブルージュに寄港しました。港のターミナルでは、ブルージュ市のダーク・デ・ファウ市長やルーベン平和団体をはじめとした現地カウンターパートナー団体による平和イベントが開催され、ピースボートからは共同代表の川崎哲、そしておりづるプロジェクトに参加している被爆者2名が登壇しました。
この日、登壇した被爆者の一人・倉守さんは、自身の被爆体験に加え、船内で出会った戦時性暴力の被害者の話にも触れました。彼女の話は、戦争が決して過去のものではなく、今この瞬間にも世界のどこかで起き続けている現実であることを、改めて参加者に突きつけるものでした。その言葉には、重くも切実な願いが込められており、会場全体が静かに耳を傾けていたのが印象的でした。

合唱団による「花は咲く」
イベントには在ベルギー日本大使館二等書記官の方も参加され、国を超えた平和への関心の高まりを感じることができました。開始の時には現地合唱団による「花は咲く」の合唱が披露され、言葉では伝えきれない思いが、音楽とともに会場全体に広がっていきました。
イベントの最後には、参加者全員でデッキに出て記念撮影を行いました。写真に収まるその表情の一つひとつから、この場に集った人々の思いが交差していることを感じました。また、終了後には参加した方々が被爆者に声をかけに来てくださる場面もあり、現地で平和に関心を寄せる人々との温かな交流が生まれました。
イベント後は、カウンターパートナーの案内でゼーブルージュ市内の散策へ。
歴史ある市庁舎では、館内にある”ゴシックの間”をガイド付きで見学し、街の成り立ちや地域の文化に触れることができました。その後はシティツアーバスに乗り、市内を約1時間かけて巡りました。コンパクトながらも石畳の道と美しい建物が調和する街並みは、どこか時間の流れがゆるやかに感じられ、心が落ち着くひとときでした。

シティツアーバスにて街並みを楽しむ被爆者
散策の締めくくりは、皆での夕食です。ベルギーの料理に舌鼓を打ちながら、イベントの感想や感じたことを自然と語り合う、和やかな時間が流れました。デザートにはもちろん、ベルギーワッフル。外はカリッと、中はふんわりとした絶妙な食感に、誰もが笑顔をこぼしていました。

全員が絶賛したワッフル
印象深かったのは、夕食会場のレストラン入口にあった「つまづきの石(シュトルパーシュタイン)」です。これはナチスによるホロコーストで犠牲となった人々の名を記した記念碑で、ささやかなサイズながら「そこにその人が暮らしていた」ということを表現し、足を止めてその意味を考えるきっかけになります。私たちもその前で立ち止まり、犠牲者の人生に思いを馳せました。
このゼーブルージュでの一日は、戦争の記憶と向き合い、今を生きる私たちの責任について考える貴重な機会となりました。現地での交流や歴史に触れる体験を通して、平和とは「願う」だけでなく「築いていく」ものだということを、改めて実感しています。
これからも、こうした一つひとつの出会いや場を大切にしながら、世界中の人々とともに平和の種を蒔いていきたいと思います。
(文:橋本舞)